2019年04月30日
サイエンスに特化したインターナショナルスクール Manai Institute of Science and Technologyは、2019年3月26日(火)から4月1日(月)までの7日間、沖縄科学技術大学院大学で中高生を対象とした「Manai Spring Program 2019(マナイ スプリング プログラム2019)」を開催しました。
「Manai Spring Program 2019」は、Manai(ISSJ)プログラムの特徴でもあるサイエンスリサーチ中心の濃密な1週間です。
Manaiのシーズナルプログラム(旧名ISSJ Summer School)は、生徒の自発性・積極性を促す授業スタイルの確立を目的に、2015年夏、2016年夏、2017年夏、2018年春・夏に続き今回で6回目の開催です。
今回開催された「Manai Spring Program 2019」では、日本をはじめフィリピン、ベトナム、タイなど6カ国20名の中高生が6つのグループに分かれ、①背景と目的、②仮説、③分析、④解決策、⑤引用文献 から構成される研究計画書を作成しました。
Manaiメンターのガイドやアドバイスを受けつつ、OIST講師陣によるワークショップを参考にしながら社会課題の解決や自身の純粋な科学的関心などから研究についての計画書を実際に作成、一例として、「バリウムナノ粒子を使った樹状突起神経可塑性の促進」「電気刺激をつかった細胞再生の加速」といった中高生レベルを超えたリサーチを行ないました。
研究ラボには最新の設備が揃えられており、中でも0.1nm以上の分解能を持つ走査型透過電子顕微鏡(STEM) “Titan Krios”をはじめとする巨大な顕微鏡群を間近で見ることができたのは生徒にとって大変貴重な経験でした。
ツアーでは実際のOIST研究者から、機器操作のコツや自身の研究にどのように結びついているかの話を聴くなど、資料からは得られない生の知見を学びとることができました。
OISTでは溶液の試験管への注入や溶液の攪拌、遠心分離機の操作などを何万桁ものプログラムを元に全自動で行うロボットが稼働しており、それを見た生徒はロボットが寸分違わない正確さで試料を作成していく様を夢中でスマートフォンに収めていました。
その他、沖縄での特色ある海洋資源の研究を行なっているマリンサイエンスセンターを見学、生徒たちは不思議な海洋生物の生態に触れ、目を輝かせていました。
ワークショップでは、PYTHONのプログラミングやサイエンス・プレゼンテーションの基本、組版処理システム LaTEX入門、またVRソフトUnityを使用し月を周回するロケットのシミュレーションなどを行いました。
特にロケットシミュレーションでは、ロケットの運動を記述するために必要な物理法則や月と地球の質量、月の公転運動などについてレクチャーを受けた後、議論は白熱しました。生徒から次元に関する鋭い指摘が飛び出し、この議論はワークショップが終わった後にも再開され、我々が想像もしないような発想を見せてくれました。
最終日のプレゼンテーションでは、全てのグループが研究発表を行いました。会場内のOIST研究者。メンターや他の生徒から質問を受け、自分たちのグループでのリサーチ活動に対する自信と満足感であふれていました。
本プログラムの前身である「ISSJ Summer Program」から続く「Manai Award」では、サイエンスに対するあくなき情熱と献身的なリサーチ活動が印象的だったグループを顕彰します。今年の「Manai Award」は「バリウムナノ粒子を使った樹状突起神経可塑性の促進」をリサーチしたグループが受賞しました。
「Manai Award」を受賞したグループは、脳の損傷などによって途切れたニューロンの再接続などの神経可塑性に基づく研究を行いました。
当初はナノ粒子と環境破壊という2つのキーワードからテーマ探しが始まり、精神疾患や環境病などへの応用など様々なアイディアを経て、細胞の再生に興味がある生徒と細胞の電気信号伝達に興味がある生徒が議論し、それぞれの関心を組み合わせることでこの研究トピックとなりました。
そして神経科学、特に神経可塑性に関する研究を行っているリサーチメンターのサポートのもと、その分野に大きな興味を抱きバリウムナノ粒子を使った樹状突起神経可塑性の促進に関する研究をすることになりました。
沖縄に着いてまず日本の他の地域とはちがって、とても静かだなと思いました。そして、OISTに初めて着いて思ったのは、建物も綺麗でラボ見学に行った際も、素晴らしい設備ばかりでした。足を踏み入れた瞬間に、この場所が科学者を生み出しているんだとわかりました。私には、周囲を歩いている人達が本当に好きなことをやっているんだということが伝わりました。
一番思い出に残っているのは、メンターたちと話すことができたプロジェクトワークタイムの時間です。とくにSarahは「これは普通のことだよ。よくあること。」と励ましてくれ、そのあとも手伝ってくれました。こういったスモールトークがこのプログラムにおける最も大切な部分です。教室で学ぶような、よくある学習の形ではありません。しかし、こういった形式のおかげで、彼らが教えてくれた全ての事柄をずっと覚えていられると思います。というのも、学ぶことを強制される授業とは違って、メンターやOISTの方々、生徒たちと学ぶ際は、彼らが何を伝えようとしているのかを理解し、応用しなければならないからです。
メンターの方が言っていたように、何かを与えるよりも、得たことのほうがずっと多かったと思います。少し自己中心的に聞こえるかもしれませんが、このことは全員に当てはまると思います。それぞれの経験から学ぶことができました。例えば国籍が違う人からは、国ごとの違いの本質も学ぶことができました。その国の学校がどんなシステムなのか、サイエンスがどんな立ち位置なのかを学ぶことができましたし、沖縄において、OISTの設備でサイエンスがどこまで発展しうるかを学びました。また、このプログラムは私の中のサイエンスの可能性を広げてくれました。
このプログラムが始まる前は、絶対に医者になろうと思っていました。そして、学校でのリサーチが単なるタスクになってしまっているのを受けて、学校外でどんなリサーチが行われているかを見たくてこのプログラムに参加しました。そして、この4日間で私のキャリアに対する考えが変化しているのを実感しています。今はリサーチを続けたいと思っていますし、神経科学に強く興味を持っています。私はこれまで全く知りませんでしたが、メンターと話す中で、神経科学がいかに解明されていないことが多いかを聞き、それらを知りたいと思うようになりました。
プログラムは本当に大変で、もちろんタスクはありましたが、主体的に取り組む経験ができました。そうしてこのプログラムは私を成長させてくれました。学んだこと全てがファイナルプレゼンテーションに活かされました。プログラム全体として、最も短い期間で最も素早く情報のインプットが行われたと思います。それらはずっと心に残り続けるものだと思います。なぜなら、私達は本当に好きなことをやっていたからです。