「インターと日本の学校、どちらかを選ぶ時代は終わった」西武学園文理小学校が示す”日本型国際教育”の新潮流

Principal With Students
埼玉県狭山市に校舎を構える西武学園文理小学校。 いま同校では、マルケス・ペドロ校長のもとで「日本の正規の小学校(一条校)でありながら高度なバイリンガル教育を提供する」という前例のない改革が進められています。 生成AIが社会を急速に変えつつある今、学校教育は何を目指すべきなのか。新たなバイリンガルクラスの狙いから実社会とつながる「ガチプロジェクト」。そして学校組織の革新までペドロ校長に語っていただきました。

「インターと日本の学校、どちらかを選ぶ時代は終わった」西武学園文理小学校が示す”日本型国際教育”の新潮流

埼玉県狭山市に校舎を構える西武学園文理小学校。

いま同校では、マルケス ペドロ校長のもとで「日本の正規の小学校(一条校)でありながら高度なバイリンガル教育を提供する」という前例のない改革が進められています。

人工知能が社会を急速に変えつつある今、学校教育は何を目指すべきなのか。新たなバイリンガル教育の狙いから、実社会とつながる「ガチ・プロジェクト」。そして学校組織の革新までマルケス校長に語っていただきました。

インターと日本の学校、どちらかを選ぶ時代は終わった。

編集部 村田(以下、村田):西武学園文理小学校では、一条校でありながら本格的なバイリンガル教育を開始されるそうですね。まずはこの取り組みを始めた背景から教えてください。

マルケス ペドロ校長(以下、マルケス):従来、日本で国際的な教育を求めようとすると「インターナショナルスクール」に行くか「日本の伝統的な学校」に行くかという二者択一になりがちでした。しかし、私はこの構造自体に疑問を持っていたんです。

インターナショナルスクールに通うと、どうしても日本語や日本人としてのアイデンティティ、国語力が中途半端になりやすい。

一方で、日本の一般的な学校に通うと、今度は英語力が中途半端になってしまう。

どちらか一方を排除して分断するのではなく、二つを融合させることが必要です。私自身、未来の教育はバイリンガルスクール以外には存在し得ないとすら思っています。

村田:具体的にはどのようなカリキュラムで授業を進めていくのでしょうか。

マルケス:ベースとなるのは、日本の文部科学省が定める学習指導要領です。

ですからインターナショナルスクールではなく、あくまで日本の正規の学校です。

そのうえで、国語は日本語、英語は英語で実施し、算数などの教科は週や単元ごとに英語と日本語を交互に使用していきます。

全体の比率としては日本語が6割、英語が4割程度ですね。

授業では、その教科の専門知識を持つ外国人教員と日本人教員がペアを組む「ティームティーチング」を取り入れます。

目指しているのは「英語をこれから伸ばしたい日本の家庭のお子さん」と「英語は得意だけれど日本語をこれから身につけたい帰国生や外国籍のお子さん」が、同じ教室でお互いを支え合いながら学べる環境です。

将来的には、一人ひとりの言語の発達や強みに合わせて、英語と日本語の比率を柔軟に選べるような「個性的カリキュラム」の実現も構想しています。

AI時代に問われるのは「知識の量」ではなく「考え方」と「非認知能力」

村田:AIやテクノロジーが急速に進化する中で、マルケス校長はこれからの子供たちに必要な能力をどう捉えていますか。

マルケス:情報を教え込むだけであれば、それは辞書や百科事典の役割です。

これからの時代、教師の役割は「情報の提供」ではなく、「ものの見方」や「考え方」を教えることへと変わっていきます。

AIに頼り切るのではなく、AIをどう活用するかというマインドセットを育てなければなりません。

また、スマートフォンやタブレットの長時間使用(スクリーンタイム)によって、子供たちの集中力低下や感情表現の難しさが世界的に問題視されています。

デジタルツールが手軽に刺激を与えてくれる時代だからこそ、学校という場では知識や計算力といった「認知能力」以上に主体性や判断力、創造力といった「非認知能力」を育むことが欠かせません。

村田:非認知能力を育てるために、大人は子供たちとどう接するべきでしょうか。

マルケス:大人が先回りして過保護になりすぎないことが大切です。

「砂場は汚いからダメ」「危ないから登るな」と過剰にリスクを管理してしまうと、子供たちは失敗から学ぶ機会を奪われてしまいます。

転んだり壁にぶつかったり、痛い思いをしながら「なぜ失敗したのか」を振り返るリアリティのある体験こそが、折れない心や新しいものに挑む原動力になるのです。

また、SNSやAIのアルゴリズムによって、自分と同じ意見だけに囲まれる「エコーチェンバー現象」も起きています。

自分とは異なる価値観や言語を持つ人と出会い、議論し、ときには衝突する。そうした人間関係の摩擦を体験して初めて、自分の考えを客観的に見つめ直す「メタ認知」の力や、イノベーションを生み出す視点が養われていきます。

リアルな社会に挑む「ガチ・プロジェクト」と、学校空間のイノベーション

村田:西武学園文理小学校で実施されている「ガチ・プロジェクト」について教えてください。どのような取り組みなのですか。

マルケス:「ガチ・プロジェクト」は、教科書の勉強にとどまらず、実際の社会や学校運営に直結した課題に子供たちがチームで挑む実践的な学びです。

例えば、本校中学校・高校では、地元・狭山市と連携して行う「ハロウィンイベント」では、市の予算を活用しながら地域住民向けのお祭りを生徒たちがゼロから企画・運営します。

駐車場の確保からゴミ処理、セキュリティ、出店する屋台の選定まで、すべて自分たちで考えます。

他にも、校内の制服を6年ごとに自分たちの手で新しくデザインするプロジェクトや、Adobeなどのデザインツールを学びながら学校の広報冊子や公式ウェブサイトを自分たちで制作・改修するプロジェクトなどがあります。
児童たちにも体験させてあげたいと思い、小学校でも2026年から5つの「ガチ・プロ」を始めました。

村田:子供たちにそこまで本格的な内容を任せるのは、珍しい試みですね。

マルケス:プロが作るような完璧な成果物を作ることが目的ではありません。

子供たちが作ったウェブサイトや冊子なら、最初は拙くて当たり前ですし、失敗したら謝ればいいんです。すでに、5月からの学校説明会は児童たちが運営しています。来年度の体操着も制服デザインの児童達が企業と一緒に考えたので楽しみにしてください。

大切なのは「本物の体験」を通したプロセスの学びです。学校という安全な場で本番の勝負を経験した実績は、将来のキャリアや生きる力にダイレクトにつながっていきます。

 

村田:プロジェクト学習の導入に伴い、学校の施設や組織体制も大きく変化しているそうですね。

マルケス:対話やプロジェクトを中心とした授業にするために、従来の昭和的な教室配置から、一人でもグループでもフレキシブルに学べる学習空間へと環境を整えています。

また、組織の面では「校長室は不要だ」ということでスペースを開放し、心理士などの専門スタッフが常駐する「個別支援センター(ウェルネスルーム)」を新設しました。

感情のコントロールやメンタル面でサポートが必要な児童が、いつでも駆け込めてすぐに教室へ戻れる体制を作っています。

さらに複数の教員がチームで児童をサポートする「チーム担任制」を導入し、子供たちが相談しやすい大人を増やす工夫も行っています。

日本の美徳と世界の視野を併せ持つリーダーを育てたい

村田:最後に、日本の保護者や教育関係者に向けてメッセージをお願いします。

マルケス:日本には、整然とした規律や他者への思いやりといった素晴らしい文化と美徳があります。

その強みを大切にしながら、同時に世界レベルの視野や誰も思いつかないようなイノベーションを起こす柔軟な発想力を身につけてほしいと思っています。

日本人としてのルーツや誇りと世界で通用するしなやかさ。そのどちらも諦める必要はありません。

デジタル化が加速する時代だからこそ、学校というリアルな場で人と人が向き合い、失敗を恐れずに共に挑戦する経験を提供し続けていきます。

お問合せ

学校名: 西武学園文理小学校

公式サイト:https://www.seibubunri-es.ed.jp/

〒350-1332 埼玉県狭山市下奥富600

TEL:04-2900-1800

西武新宿線「新狭山駅」より徒歩約10分

この記事の記者

編集長 兼 国際教育評論家 村田学

インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。