子どもの「居場所」はどこにあるのか:SENIA International Japan支部 共同代表・ステファニー・デル・ロサリオ氏との対話

International School Class
インターナショナルスクールで多様な学びを必要とする子どもを持つ家庭を支える「SENIA Japan」共同代表ステファニー氏へのインタビュー。専門家と親をつなぐコミュニティの意義、保護者による声上げの大切さ、そして「インターナショナルスクールが本当に我が子に合っているか」を見極めるための現実的な問いを紹介。理想と現実の両面からインクルージョンを考える一篇。

インターナショナルスクールやボーディングスクールの世界に一歩を踏み出す日本の家庭にとって、その教育環境は刺激的であると同時に、未知の連続でもあります。グローバルな視野や柔軟なカリキュラムに魅力を感じて入学を決める一方で、発達の段階に凸凹があったり、学習サポートを必要とするお子さんを持つご家庭は、「インクルージョン」というスクール独自の教育思想や支援体制の壁に直面することが少なくありません。

豊かな専門キャリアと、長年にわたる日本での生活経験を兼ね備えたステファニー・デル・ロサリオ氏とマルワ・エルゲゼリー氏。二人は、SENIA International Japan支部を新たに率いる共同代表です。共同代表の一人であるステファニーと語り合い、インターナショナルスクールの支援体制が多様な学びを必要とする子どもたちのために日本国内でどのように進化しているのか、彼女の豊富な経験をもとに話を伺いました。

SENIA Internationalという団体の歩みを振り返ると、その規模の大きさに驚かされます。同団体は2002年、中国のインターナショナルスクールに勤務する数人の特別支援教育の教員たちによる勉強会として始まりました。国をまたいで転任することの多いインターナショナルスクールの教員たちは、国境を越えて密に連絡を取り続け、このネットワークをアジア全体へと拡大させていきました。そして、この国境なき広がりを背景に、2024年に団体は世界規模のネットワークへと正式にリブランディングを行いました。この拡大に伴い、従来の「特別支援教育(Special Education)」という表現を含む団体名から「SENIA International」へとアップデートしました。子どもたちの凸凹を欠陥として捉えるのではなく、多様性を認め、祝福する現代的かつインクルーシブなアプローチへと、その言語表記すらも意識的に変化させてきたのです。

ステファニーがラーニングサポートの道を志したきっかけは、大学の講義室ではなく、少女時代を過ごしたフィリピンでの温かい夏の記憶にありました。 「幼なじみに、ダウン症のフローレンスという男の子がいたんです。彼と私には、言葉を超えた特別な絆がありました。まったく言葉を使わなくても意思疎通ができて、彼のそばにいると、私はありのままの自分でいられると感じました。進路を選ぶとき、私はこの直感に従って生きることが自分の生きがいだ と確信したのです」

2005年に大学を卒業して以来、ステファニーは一貫して多様な学びを必要とする子どもたちとその家族たちのサポーターとして働いてきました。フィリピンから東京の主要なインターナショナルスクールまで、さまざまな教室を渡り歩いてきた彼女は現在、日本国内におけるインターナショナルコミュニティの構造改革という、極めて重要なターニングポイントで舵取りを担っています。

SENIAを紐解く:専門家の殻を破り、手を取り合うために

教育関係者以外にとって、「SENIA」というアルファベットの響きはどこか敷居が高く感じられるかもしれません。ステファニーは、この団体の本質をこのように分かりやすく説明してくれます。

「本質的にSENIAは、一般教諭、学習支援のスペシャリスト(作業療法士、言語聴覚士、心理士)および学校のリーダー陣(校長や副校長など)が一堂に会する、活気に満ちた、協働のためのコミュニティです。私たちは知見を共有し、世界の専門家から学び、最終的には日本国内のインターナショナルスクールに通うすべての子どもたちが受けられるケアと教育の質を常に改善することを目指しています」

これまで、日本国内における多様な支援を必要とする子どもたちへのサポートは、学校と外部の臨床専門家(セラピストなど)が個別に対応する、縦割りの「孤島」のような状態でした。チームとして子どもを中心に据え、手を取り合って連携することは極めて稀だったのです。

大きな一歩となったのは2025年。SENIAが、10年以上にわたり国内で草の根の支援ネットワークを築いてきた「Japan Learning Support Network (JLSN)」と正式に提携し、年次カンファレンスを共同開催したことです。長年地域に根ざしてきたJLSNのネットワークと、SENIAのグローバルなリソースが一つになったことで、日本の文化や背景に寄り添いながら、従来の社会的・制度的な壁を取り払うインターナショナル基準のインクルージョンが国内に根づき始めています。

この一体となったネットワークは、特に小規模なインターナショナルスクールにとって大きな救いとなっています。小規模なスクールは、アットホームで特性のある子どもたちを温かく受け入れてくれる一方で、大手の名門校のような豊富な予算や、学習支援に特化した常勤スタッフを抱えるリソースがどうしても不足しがちです。共有の支援プラットフォームであるSENIA Japan が存在することで、規模の小さなスクールの先生であっても、大手のスクールとまったく同じ最新の研修や教材データ、および臨床専門家のネットワークにアクセスできるようになるのです。

親の「声」:孤島から抜け出し、変化の起点となるために

日頃からこのコミュニティの中で作業療法士として活動していた私にとっても、ステファニーが掲げるビジョンの中で最も深く共鳴したのが、「親自身による権利擁護(アドボカシー)」への強いコミットメントです。

日本における療育などの発達支援や、学校生活での個別配慮をめぐる環境は、時に親にとって深い孤独を感じさせます。言葉の壁、発達の多様性に対する周囲の目、そして家庭と学校間のコミュニケーションのすれ違いは、親を社会から孤立した「孤島」に取り残されたような気持ちにさせることがあります。

「慣れない言語で我が子の支援体制を整えるのは、本当に骨の折れることです」とステファニーは共感を示しながらも、力強く続けます。「ですが、親は我が子の教育における『傍観者』ではありません。学校や社会のシステムを変えていく一番の原動力は、他ならぬ親の存在なのです」

この孤独を解消するための具体的な一歩として、ステファニーは今年度、自身の勤務するスクールで「保護者向けサポートグループ(Parent Support Group)」の立ち上げを主導しています。これは特定の学校におけるローカルな試みではありますが、コミュニティ全体へ向けたメッセージは明確です。『我が子の通う学校で、保護者主導のフォーカスグループを求めること、あるいは自ら立ち上げることは、現状を変えるために極めて勇気があり、必要とされているアクションである』ということです。親たちが手を取り合い、一つの「声」となってまとまるとき、学校の管理体制にも本質的な変化が生まれ始めます。

SENIAプロバイダーズ・フェア:教育と療育の「懸け橋」となる専門家を見つける場所

インターナショナル教育にまだ馴染みがなかったり、英語で医療や支援サービスを受けたりすることに不安を感じている家庭にとって、我が子に適したサポートにたどり着くのは至難の業です。だからこそ、毎年開催される「SENIAプロバイダーズ・フェア」は、家族にとって極めて重要なライフラインとなっています。

このフェアは、単なる専門家同士の交流会ではありません。支援を必要としている家庭が、実際にどんなリソースがあるかを「目で見て選ぶ」ことができる、一般に開かれた相談窓口です。会場に一歩足を踏み入れれば、日本語と英語の双方に対応できる「懸け橋(ブリッジング)の専門家」たち——言語聴覚士、作業療法士といった専門家や、多様な学びに対応できる個別指導の家庭教師など——と、直接その場でつながることができます。学校から届く英語の学習計画書をどう読み解けばいいのか、あるいは専門的な療育のフィードバックを家庭での日常的なステップにどう落とし込めばいいのか。言葉や文化の狭間で立ち往生している親にとって、このフェアは二つの世界を確実につなぐ道しるべとなるはずです。

隣の芝生は本当に青い?:日本の社会構造から考えるインクルージョンの本質

対話の中で、私たちは今、国内で顕著に見られるある変化へと視点を移しました。それは、凸凹のある我が子の居場所を求めて、日本の公教育や従来の私立校ではなく、あえてインターナショナルスクールやボーディングスクールを選択する日本の家庭が増えているという現実です。

この潮流は、私たちが暮らす社会の教育環境について、何を物語っているのでしょうか。

「多くのご家族が、インターナショナルスクールの華やかな側面に目を奪われ、『あそこならきっと我が子に完璧な環境があるはずだ』と考えがちです」とステファニーは冷静に見つめています。「多くの場合、彼らが求めているのは最先端の教育設備そのものではなく、『ありのままを受け入れてくれる空気感』なのだと思います。均一性を尊び、同調圧力が強く働きがちな日本の社会構造の中で、生きづらさを抱える子どもを持つ親にとって、インターナショナルスクールは、一律の基準でジャッジされない唯一の避難所のように映るのかもしれません」

しかし、ステファニーは同時に保護者たちに向けた現実的な視点も忘れません。 「インクルージョンの課題や葛藤は、当然インターナショナルスクールの中にも存在します。これは決して『日本の学校教育だけに特有の問題』ではなく、社会全体が一人ひとりの個性をどのように価値づけるかという、普遍的なテーマなのです」 さらに彼女は、困難を抱える日本の家庭が地域社会の公教育から一斉に抜け出してしまうことで、地域の小中学校自身が特別支援教育の枠組みをアップグレードさせていくための「ボトムアップの変革圧力」が削がれてしまうという、社会的な課題も指摘しています。

現実的な問い:親として進路を見極めるための羅針盤

インクルージョンが掲げる美しい理念に共感しつつも、日本の保護者の方々にはインターナショナル教育のきらびやかなイメージの裏側にある現実を、地に足のついた現実的な視点で見極める必要があります。凸凹のあるお子さんのためにインターナショナルな進路を選ぶことは、極めて慎重で戦略的な選択でなければなりません。

この道に進む決断をする前に、あるいは現在の学校が本当に子どものためになっているかを立ち止まって評価するために、以下の問いを自分自身に投げかけてみてください。

  • インターナショナルスクールに通うことは、将来の進学や日本国内での就職の選択肢を「広げる」ものですか?それとも、逆に「狭める」ものですか?もし将来的に日本国内を基盤に生きていく予定があるならば、一条校(日本の教育課程に準拠した学校)ではないルートを選ぶことが、将来の国内の大学進学や企業へのアクセスにおいて障壁となり得るか、あるいはそれを凌駕するほどの真のグローバルな強み(競争力)となるのかを、冷静に計算する必要があります。
  • 「英語を学ぶこと」、そして「英語で授業を受けること」が、長い目でお子さんの「学びの質そのもの」や「将来の可能性」を損ねてしまうリスクはありませんか?すでに言語発達や意思疎通に凸凹を抱えている子にとって、そこに第二言語という新たな負荷を加えることは、脳に大きなキャパシティを要求します。その英語環境は、子どもの自己表現力を引き出していますか?それとも、「英語が聞き取れない・話せない」という言語の壁に隠れて、その子が本来持つ高い学力やポテンシャル、学習課題そのものが覆い隠されてしまっていませんか?
  • インターナショナルスクールを選ぶ、最大の目的(動機)は何ですか? そのスクール独自のカリキュラムや教育哲学に惚れ込んで選んだのでしょうか。それとも、従来の公教育のシステムや、周囲から浮いてしまうことの息苦しさから「逃げるため」の選択になってはいませんか?
  • この「お試し期間」を終え、次の進路へピボット(転換)すべき判断基準をどこに置きますか?あらかじめ「これ以上の負担がかかったら立ち止まる」というラインを夫婦で共有しておくことが重要です。そのスクールで過ごした時間が、子どもの人生にとって十分に自己肯定感を育む素晴らしい「ひとつの季節」であったと認めつつも、次は別のシステムへ移行すべきタイミングを知らせるサイン(指標)を決めておきましょう。

インターナショナルスクールという選択を「永続的な安住の地」として捉えるのではなく、その子の長い人生における「自立して社会に貢献していくための過渡期」として主体的に評価し続けること。そうした冷静なマインドセットこそが、子どもの発達の軌道を長い目で守ることにつながります。そしてこれこそが、SENIA Japanのようなネットワークが真に本領を発揮する場所です。ここには、魔法のように課題を解決してくれる完璧な学校はありません。しかし、同じ葛藤を抱える親同士のコミュニティ、日本と海外の橋渡しができる優秀なセラピスト、そして変革を叫び続けるプロフェッショナルたちの確固たる連携が、どの道を選んでも歩み続けられるよう全力で並走してくれるのです。

SENIA Japanへようこそ

ステファニーとマルワの共同代表体制のもと、新たなスタートを切ったSENIA Japanは、これまで以上に広い視野で、あらゆる人々に声がけをしています。特別支援の学位がなくても、専門的な医療ライセンスを持っていなくても、英語の難しい専門用語を完璧に理解していなくても、このコミュニティに加わる資格は十分にあります。

「もしあなたが、子どもたちがその子自身のままで受け入れられる世界を作りたいと願う一人の親であり、教育者であるなら、あなたはすでに私たちの仲間です」とステファニーは語りかけます。 「一人で悩まないでください。周りの人とつながり、コミュニティを作り、我が子のために声を上げましょう。私たちは、決して孤独な闘いをしているわけではないのですから」

SENIA Japanについてはここからご覧いただけます。

この記事の記者

二宮 彩

二宮彩は、障害と神経多様性のインクルージョンおよび国際教育を専門とするプライベートインクルージョンコンサルタントです。国内外の学校や教育リーダーに対し、バイリンガルやサードカルチャーキッズを含む複雑なニーズを持つ学習者を支援する方法について助言を行っています。異文化間での豊富な経験を活かし、家庭や教育者が異文化環境での子育てや教育の複雑さを乗り越える手助けをしています。また、日本に住む外国人や駐在員家庭を支援する専門知識を持つ医療・福祉の専門家と家庭をつなぐ新たな取り組みも進めています。