2025年04月07日

ノースロンドン【イベントレポート/前編】世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜

「North London Collegiate School Kobe(NLCS Kobe/ノースロンドン神戸)」は、2025年3月6日(木)にトークイベント「世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜」を開催しました。NLCS Kobeのコラボレーターである東京大学教授の鈴木寛さんとNLCS Kobeを手掛ける八光エルアールの池田浩八代表がトークセッションを展開し、Well-being(ウェルビーイング)を実現するために必要な教育環境について語り合いました。当日のトークの様子を2回のレポートにてお届けします。


今年8月に開校へ! North London Collegiate School Kobe の公開イベント報告!

建築家 Michele De Lucchi(ミケーレ・デ・ルッキ)氏によるNLCS Kobeの校舎。
2024年12月時点でのイメージパース (※画像はいずれもイメージです)。

 

North London Collegiate School Kobe(NLCS Kobe/ノースロンドン神戸)は、2025年3月6日(木)にトークイベント「世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜」を開催しました。

NLCS Kobeのコラボレーターである東京大学教授の鈴木寛さんとNLCS Kobeを手掛ける八光エルアールの池田浩八代表がトークセッションを展開し、Well-being(ウェルビーイング)を実現するために必要な教育環境について語り合いました。

NLCS Kobeは2025年に六甲アイランドのAsia One Center(神戸市東灘区)にて小中学校を開校。2028年、六甲山に校舎を新設して中高一貫のボーディングスクールを開校します。
プリスクール・小学部についても2028年から2030年までの間での校舎の移転を計画しています。​​

当日のトークの様子を2回のレポートにてお届けします。

「世界基準の教育の未来予測」

主観ではなく“ハーモニー”を大切にする 「日本型のウェルビーイング」を教育の柱に

 

司会:今回のトークセッションでは、インターナショナルスクールについてだけではなく、日本の教育の未来についても考えていきたいと思っております。

そこで4つのテーマを設定し、お2人のご意見をお伺いします。

まず最初のテーマは「世界基準の教育の未来予測」です。
AIを含むテクノロジーの進化などによって現代社会は急速なスピードで変化していますが、それに対して世界の教育というものはどのように変わってきているのでしょうか。浩八代表はどう思われますか?

池田浩八代表(以下、池田代表):以前行ったNLCS Kobeの学校説明会でも企業の時価総額の話をさせていただきましたが、バブル前のランキングでは、世界の中でも日本の企業が上位に名前を連ねていました。
しかし現在では、上位からほぼいなくなり、50位以内の企業はトヨタのみという状況です。

現状を変えるためには、いろんな国籍やバックグラウンドを持つ人たちとともに暮らし、ともに仕事をしていくことが今後ますます求められるようになると思います。

そこに適応し、リーダーシップを張っていける子供たちをどう育てていくのか。これが世界基準の教育の1つのテーマになるのではないかと思っています。

司会:鈴木さんは文部科学副大臣、文部科学大臣補佐官に就任し、現在はウェルビーイング学会副代表理事を務めるなど、国内のウェルビーイング研究の第一線で活躍されていらっしゃいますが、池田代表のお話を受けていかがですか?

鈴木寛(以下、鈴木):OECD(経済協力開発機構)は2015年から「Education 2030 プロジェクト」というものを進めてきまして、私は昨年までそのコーファウンダーとしてビューロー・メンバーを務めていました。

具体的には、世界中の学者や教育省の人たちと2030年の教育がどうなるのかを予測し、ラーニングコンパスという学習の枠組みを作成して世界約80か国に発信する取り組みです。

プロジェクトを進める我々は当初からAIの台頭を見越していましたが、現場サイドはなかなかその実感がなかった。しかし今、AIは急速な勢いで広がっています。

鈴木:20世紀型の教育では、マニュアルを覚えて正確に高速に再現し、小さなミスを発見して直すことがすごく重要でした。
だからこそ日本の工業は世界一になり、1970年代には「Japan as number one(ジャパン アズ ナンバーワン)」とまで表現されていましたが、それを今はロボットやAIがやります。

大学入学共通テストもAIがほぼパーフェクトに解けるようになり、人間がマークシート型の学力をいくら備えたとしても、全部AIに置き換えられる時代になったわけです。

そんな中で“人間の何が大切なのか”をもう一度考えた時、出てくるキーワードが「ウェルビーイング」です。個人と社会のウェルビーイングの最大化に貢献することがこれからの教育の目的だということで、政府が令和5年に閣議決定した第4次教育振興基本計画では、2つの柱のうちの1つを「日本型のウェルビーイング」としています。

池田代表:「日本型のウェルビーイング」の定義は何でしょうか?

鈴木:欧米型は10段階で評価する仕組みで、「あなたはこのうち何段目ですか?」という主観的なものです。それも非常に重要なのですが、日本型が提唱するのは「バランスとハーモニー」です。

日本には調和の精神があり、チームになった時に大きな力を発揮します。
ただ同時に、それが同調圧力になってはダメです。
例えばオーケストラは、みんなが違う楽器で違う旋律を奏でていますよね。
同じ歌を同じように歌うのではなく、それぞれが個性を発揮しながらハーモニーとなり、1人では出せない素晴らしい音楽を生み出す。
それこそが日本の強みであり、僕は「ソーシャル・オーケストレーション」と表現しています。

そんな風に、過度な同調圧力をかけることなく融合していこうという議題が大阪・関西万博で話し合われる予定です。

SDGsは2030年を達成期限にしていますが、その次はおそらく「SWGs(サステナブル・ウェルビーイング)」になるでしょう。その最前線となる考え方を関西から発信できたらいいなと思っています。

 

テストで合格するための勉強ではなく 探究型のアプローチで自分の個性を知る

鈴木:ウェルビーイングで重要なのは「繋がり」と「自己決定・自己表現」という2つの要素です。
今までは1人あたりGDPが高くなれば幸せという考えでしたが、もはや物だけが豊かになっても幸せとは感じられない時代になりました。

特に今の若い世代は物欲がないと言われていますよね。

では、何が人間を幸せにするかというと「友だち」です。
いろんな仲間がいることが人生の幸せなんです。

また、昔はいい学校に行っていい会社に入り、言われたことをきちんとやるのが幸せだとされてきました。
20世紀はそれでよかったかもしれませんが、個性を発揮したらつまみ出される社会なんて面白くないですよね。

決められた生き方をするのではなく、自分でやりたいことを決めて表現することが大切です。
自分の人生を生きていないとウェルビーイングは得られません。

池田代表:前提として、いろんな答えがあるということをまず知る必要があると思います。
僕たち世代が受けてきた教育は正解が1つで、勉強の多くがテストで合格するためのものでした。

そこから社会に出て、企業で働いたり、起業して世の中に求められるサービスを考えたりする中で、勉強で学んできたこととは違うステージの力が求められることに気づきます。

その段階でようやく、自分がどんな力を発揮できるのかという課題に直面するわけですが、子供のうちにこうした気づきや学びを得られるようにするには、どうしたらいいのでしょうか?

鈴木:最新の学習指導要領に入っている「総合的な探究の時間」という探究型のカリキュラムが、そうした力をつける助けになると思います。
ただ、まだ入って間もないので、きちんとできている学校とそうでない学校の差がついていますね。

私も毎週のように高校の教員や中学校の校長に向けた研修を行っていますが、まだ時間はかかるかなという印象です。

池田代表:教員側の知識はもちろんですが、子供たちの声を引き出して融合していくファシリテーター的な能力も求められますよね。

鈴木:そこは地道に頑張っていかないといけないですね。

 

ウェルビーイングな人材育成のためには、 表現力を育み、役割分担を学ぶドラマ教育が重要

鈴木:あともう1つ大きなポイントになるのが「STEAM(スティーム)」です。

2016年のG7教育大臣会合で確立した言葉で、サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティクスの頭文字を組み合わせた「STEM(ステム)」に、アートの創造性を加えた教育概念のことです。
イギリスの名門校を見てみると、その多くがミュージカルなどのドラマ(演劇)教育に3分の1から半分ものリソースを割いています。
こうした点からも、ウェルビーイングな人材育成においてアートがどれだけ重要なのかがよくわかります。

さらに今後はそこにAIやデジタル、バイオテクノロジーを取り入れていこうという動きもあります。

池田代表:今、六甲山に建てるNLCS Kobeの新校舎の設計を進めているのですが、いわゆる一方向から教員が話すレイアウトではなく、円卓が真ん中に置かれていたり、壁一面がホワイトボードになっていたりと、従来の日本の学校の教室とは大きく異なります。

また山の上にはドラマのスタジオや体育館などもつくる予定ですが、英国本校からのリクエストを見ると非常に本格的で驚きます。

もうプロ仕様と呼んでいいレベルです。

24年12月時点でのイメージパース (※画像はいずれもイメージです)。

 

鈴木:実は私は大学時代、駒場小劇場でミュージカル劇団の音楽監督をしていたのですが、自分自身の経験からしてもドラマ教育は非常に重要だと思います。

池田代表:僕たちが学生の頃は、演劇部って少しマイナーなイメージだったので、それが正直よくわからないんですよね。

鈴木:そう、だからやったことがないとわからないんですよ。
ただ、イギリスをはじめ世界のトップで活躍している方々は、だいたいみんな学生時代にドラマ教育を受けています。

重要なのは「新しい物語をつくる」という点。
しかも劇団には役者だけではなく、音楽、美術、照明、衣装などさまざまな仕事があるので、役割分担も学ぶことができます。

それがまさにオーケストレーションで、演技が得意な人もいれば音楽が得意な人もいる。
それを一緒にクリエイティブすることが人間の仕事なんです。

池田代表:昔からある演目をやるのではなく、ゼロからクリエイティブするということですか?

鈴木:もちろんその場合もありますし、例えば『ウエスト・サイド・ストーリー』の元ネタは『ロミオとジュリエット』ですよね。

オペラの演出も時代とともに変化しているし、オリジナルをどうリメイクするかも、すごくクリエイティブなことです。
しかし残念ながら、日本の中学校・高校ではそういったアクティビティが少ないのが現状です。

かつ、私がイギリスに行くたびに思うのは、シェイクスピアとニュートンの国だなということ。
子供たちは大英博物館やサイエンス・ミュージアムでイギリスの発明や発見の歴史に触れることができますし、例えば自分の学校のOBがノーベル賞を取っていたり、著名なアーティストになっていたりすると、その世界がすごく身近に感じられますよね。

最近は日本でもノーベル賞受賞者が増えましたが、まだまだ遠い存在。
もっと子供たちが、自分の先輩が歴史のエポックメイキングをしてきたんだという感覚を味わえることも重要だと思います。

 

「これからの教育に重要な4つのファクト」

多様な友だちを作ることが 新しい世界に飛び出すきっかけに

司会:2つ目のテーマは「これからの教育に重要な4つのファクト」について。昨年7月に実施されたNLCS Kobe開校の記者発表会でも鈴木さんと池田代表のトークセッションが行われましたが、その中で特に反響があった話題から「知識を活用する力」「好きなことを持つこと」「親の価値観を変える」「友だちをつくる力」を4つのファクトとして挙げさせていただきます。お2人はそれぞれどのような点が重要だと考えますか?

池田代表:僕は友だちが大好きで、友だちからいろんなことを学びたいと常に思っているので、「友だちをつくる力」からお話ししたいと思います。

つい先日、1週間ほどナイジェリアに行っておりまして、世界最大の水上スラムであるマココを訪れました。
その昔、陸に住めなくなったナイジェリアの漁師が水上にバラックをつくって住んだのが始まりで、その後さまざまな理由で陸に住めない人たちが合流して、今では20万人以上が住んでいるそうです。出生届が出ていない人も多いため、正式な数は把握できていないようですが。

そこにある学校の運営されている方々をご紹介いただいて見学に行きました。
陸から船に乗ってバラック街を通り抜けていくのですが、ゴミをゴミ箱に捨てるという文化がないので、全部海の中に捨てられていて、環境は非常に悪かったです。

国に焼却炉もなく、特定の民族がゴミを焼く役割を担っているという状況です。
衛生的な文化もそうですし、読み書きや算数をはじめ、教育はやはり行き届いていないなと感じました。

でも、子供たちはすごく元気でキラキラしていて、日本や他の先進国の子供よりも幸せそうに見えたんですよね。

池田:自分の近しい友だち5人の知能の平均値が自分だという話を聞いたことがあります。
マココの子供たちはみんな同じ環境にいるため、その中から大学に行こうとか、起業しようとか、世界で活躍しようというような考えを持つこと自体がなかなか難しい。

これは日本人にも言えることで、周りの友だちとは違う5人の友だちをつくれる環境を学校や社会が用意すれば、新しい世界に飛び出すきっかけを与えられるはずです。

そういった意味では、NLCSは複数国にネットワークがあり、早い段階から交流できるため、友だちづくりのいい環境が提供できるのではないかと思っています。

世界にはさまざまな環境があり、どれも正解ではありませんが、多様なバックグラウンドを持つ人がいると知れば選択肢が広がります。

日本の子供たちをマココに連れて行くのはハードルが高いですが、ビデオ通話でお互いの学校や家の様子を共有するだけでも大きな気づきがあると思います。まずはそこから実現していこうと考えていて、現地の子供たちとも約束しました。

 

鈴木:アフリカつながりで、私も「友だちをつくる力」について話させていただくと、2050年には、若者の半分以上がアフリカと南アジアの人になると言われています。

この会場にいらっしゃるみなさんもそうかと思いますが、私は中高時代の友だちとは今でも仲がいいです。お互い何者でもなかった時の友だちというのは一生ものなんですよね。それはおそらくこれからの子供たちにとっても同じだと思います。

しかし、我々の時代と決定的に違うのは、友だちの半分以上、あるいは5人中2人くらいがアフリカと南アジアの人かもしれないということ。
また5人に1人はイスラム教徒の友だちかもしれません。

世界で何が起こっているかをニュースで知るのと、友だちから直接聞くのとでは問題意識が全く違ってきます。イギリスはそうした国々と関係が深く、NLCSの英国本校はもちろん、その他の海外校にもアフリカや南アジアの児童や生徒はたくさんいます。

そういったコミュニティに若いうちから入り、普通に友だちになれる環境に身を置くということは、大きなアドバンテージになると思います。

 

これまでの常識が通用しない時代を 親子で楽しむことが大切

鈴木:もう1つ、「親の価値観を変える」というファクトも非常に重要です。
長年教育現場に携わる私ですら、日々勉強してアップデートしようと頑張っているくらいです。

今、世界はおよそ150年ぶりに歴史の大転換期を迎えています。それくらい楽しい時期なんです。
だからこそ、自分が育ってきた時代の常識は全く当てはまらないということを親が理解しなければいけません。

日本の教育改革の最後の課題は、親の価値観を変えることだとさえ言えます。

また「知識を活用する力」に関して押さえておきたいのは、過去に人間が発明したり理解したりしたことは、今後全てAIが担うということです。
「問答」という言葉がありますよね。これまで日本は「答える」教育をしてきたのですが、その力はAIが人間に並んだので、これから大切になるのは「問う」力。「本当のウェルビーイングとは何か」「本当の友だちとは何か」を考えるのは、AIではなく人間の役割です。

非連続の飛躍的なイマジネーションやインスピレーションなど、アーティスティックな部分を人間がどれだけ担えるかが重要になると思います。

池田代表:僕たち世代は、学校で答えのあるものの答えを聞かれることが多かったと思いますが、IBのアプローチでは「この絵を見てどう感じる?」という問いかけをします。
そこに答えがあるわけではなく、自分が感じたことを人に伝えることが大切なんです。
一見シンプルですが、やり慣れていないとなかなか難しい。

親としても、日本の従来のやり方ではない問いかけを学んでいかなければいけないと思います。
答えのある問いは正解か不正解かで判断できますが、そんなの社会に出たら全く役に立たないですよね。

自分が考えたことを仮説として立て、実行し、検証していくクリエイティブな力が求められる時代です。
だからこそ、親もそのプロセスを一緒に楽しめたらいいのではないかと思います。かつ、このIBのアプローチは自己肯定感とも密接にリンクしています。

大人でさえもSNSで他人と比較して、恵まれた環境なのに自己肯定感を感じられない人が多いですよね。そんな自分の価値観を子供にコピーするのか、そこはしっかり課題感として捉えておいた方がいいかなと思います。

後編へ続きます。

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ウィリアムズ校長がNLCS Kobeのビジョンについて話しかけるウェルカムビデオが公開されています。
NLCS Kobeで、子どもたちがどのように特徴的な教育を体験できるのか、そして今年8月に最初の生徒たちを迎えることを心待ちにしているウィリアムズ校長の想いが伝わってきます。


この記事の記者

インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。

プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。

国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。