2025年04月18日

ノースロンドン【イベントレポート/後編】世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜

「North London Collegiate School Kobe(NLCS Kobe/ノースロンドン神戸)」は、2025年3月6日(木)にトークイベント「世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜」を開催しました。NLCS Kobeのコラボレーターである東京大学教授の鈴木寛さんとNLCS Kobeを手掛ける八光エルアールの池田浩八代表がトークセッションを展開し、Well-being(ウェルビーイング)を実現するために必要な教育環境について語り合いました。当日のトークの様子を2回のレポートにてお届けします。


今年8月に開校へ! North London Collegiate School Kobe の公開イベント報告!

建築家 Michele De Lucchi(ミケーレ・デ・ルッキ)氏によるNLCS Kobeの校舎。
2024年12月時点でのイメージパース (※画像はいずれもイメージです)。

 

North London Collegiate School Kobe(NLCS Kobe/ノースロンドン神戸)は、2025年3月6日(木)にトークイベント「世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜」を開催しました。

NLCS Kobeのコラボレーターである東京大学教授の鈴木寛さんとNLCS Kobeを手掛ける八光エルアールの池田浩八代表がトークセッションを展開し、Well-being(ウェルビーイング)を実現するために必要な教育環境について語り合いました。

NLCS Kobeは2025年に六甲アイランドのAsia One Center(神戸市東灘区)にて小中学校を開校。2028年、六甲山に校舎を新設して中高一貫のボーディングスクールを開校します。
プリスクール・小学部についても2028年から2030年までの間での校舎の移転を計画しています。​​

当日のトークの後半をお届けします。
▽ 前半は、こちらの記事をご覧ください。

ノースロンドン【イベントレポート/前編】世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜 | By インターナショナルスクールタイムズ

https://istimes.net/articles/1562

「North London Collegiate School Kobe(NLCS Kobe/ノースロンドン神戸)」は、2025年3月6日(木)にトークイベント「世界基準から考える今の日本の教育〜子供が選択できる未来づくり〜」を開催しました。

「答えを生み出せる子供たちとは」​

 

“日本ちゃんと教の呪い”を解くと 子供の自己肯定感が上がる

司会:続いて3つ目のテーマは「答えを生み出せる子供たちとは」です。
予測できない未来、これからの子供たちに必要とされるのは、自分なりの答えを生み出せる力です。
今後の答えのない社会に立ち向かうために、今の教育に足りないもの、家庭でもできることについて教えてください。

鈴木寛(以下、鈴木):さっきお話ししたように、「答え」というよりは「問い」が重要ですよね。
おそらく一生かかっても解けない問いはたくさんあります。

人間とは何か、美しいとは何か、ウェルビーイングとは何か、幸せとは何か。

そういった問題に対する意識を持ち続けることが大切なのですが、その好奇心が芽生えた時に「そんなことやっていないでちゃんとしなさい」と大人が言ってしまうんですよ。これをとにかく減らすべき。

私は“日本ちゃんと教の呪い”と呼んでいるのですが(笑)。
日本はちゃんとしすぎです。「過ぎたるは及ばざるが如し」で、「ちゃんとしなさい」をやめると子供の自己肯定感が上がります。

子供は5、6歳まではのびのび、元気に、自然に、いろんな「なんで?」を連発します。

先日公開された映画『小学生〜それは小さな社会〜』はまさに日本を象徴していて、中高からインターナショナルスクールに通った監督が「6歳児は世界のどこでも同じようだが、12歳になる頃には日本の子供は“日本人”になっている。

これは小学校が鍵になっているのではないか」と感じ、公立学校を舞台に撮影した作品です。

もともと人間は、どこの国の人であろうが好奇心とクリエイティビティを持っている動物です。
それを日本は6年かけてどんどん芽を摘んでいくんですよね。これさえやめればいいんです。

池田浩八代表(以下、浩八代表):自分自身の経験を振り返ると、小学生の頃は先生が質問したらみんな手を挙げていたのに、中学校に入ると手を挙げたらカッコ悪いというような雰囲気になっていました。

自分もそんな空気を読んでしまっていたのかもしれません。あれはどうしてなのでしょうか?

鈴木:結局、自分がやられたことをやっているんですよ。
日本の教員の大半は“日本ちゃんと教の呪い”がかかっているから、その教員と一緒に過ごすと子供たちも呪いにかかる(笑)。

そうでない教員と接することができるのがインターナショナルスクールのよさでもあると思います。
英語力が身につくのももちろん重要ですが、そこはこれからAIもありますので。

だから日本の教員のみなさんも、どんどん異文化に触れて呪いを解いてほしいですよね。

 

AI活用で余った授業時間を 新たな学びの深堀りに充てる

浩八代表:AIがあることで今後暗記の必要性がなくなってくると思いますが、とはいえ基礎学力や脳を鍛えるためには、覚えたり繰り返し計算したりすることもきっと大切ですよね。

ChatGPTで答えはもらえるけど、質問するための思考力はつけておく必要がある。その境界線が難しいところだなと思います。

鈴木:ひとまず、過度に速さを求める教育は見直した方がいいと思います。
日本の15歳の数学は75%以上がレベル3以上で、これは世界で圧倒的。

中高の受験は相対評価が必要でスピードも問われるため、子供たちは速く解くことを迫られます。
ただ私も誤解していたのですが、速く解ける子が正解率も高いかというと実は違って、速さと正解率はあまり関係がないんです。
日本で数学が苦手だった子がアメリカに行くと「ジーニアス!」なんて言われることもままあるそうですが(笑)、それはあくまで15歳まで。

速く解くことを求めすぎずに、そのエネルギーを他に回した方がいいと思います。

浩八代表:これは僕が勝手に思っていることなのですが、今後AIが出てくることで勉強する時間が余るのではないかと。

今まで必死になって年表をなめて覚えていた歴史の授業はいらなくなるだろうし、いろんな科目においてそれが起きてくると、時間が余るじゃないですか。その分、何か別のことを勉強すべきなのではないかと思うんです。

鈴木:歴史を例に挙げるとすると、私は社会科学が専門なので、いまだに歴史を振り返り続けていますよ。

明治時代のことだって、私たちは表面的な事実しか知りませんよね。
でも実際には何千万人もの人間が生きていたわけで、その人たちがどういう暮らしをしていたかということだけでも、いくらでも調べられる。

無限に学べるんです。

そんな風に、時間が余れば別の角度からどんどん掘り起こしていって、新たな学びを深めていけばいいと思います。

浩八代表:なるほど。今、NLCS Kobeでは日本独自のカリキュラムを設計しているのですが、まさに先日、「日本の歴史で何を学ぶか」というテーマについて担当者と話したんです。

「僕らの時代は“イイクニ(1192)つくろう鎌倉幕府”で終わっていたけど、IBのアプローチだと鎌倉幕府から何を学ぶの?」と聞いたところ、「権力と統治についてディスカッションします」と。

鎌倉幕府以前は土地を保証する制度がなく、所有を巡って各地で争いが起こっていたのを、源頼朝は「俺の言うことを聞いたら幕府として土地を守る」と言って、みんなを自分側に引き寄せて統治したんですよね。

海外の歴史でも同じようなことが起こっているし、将来企業でリーダーシップを発揮する時にも使えるという話を聞いて、僕もそんなことを勉強したかったなと心から思いました。

 

「NLCS Kobe独自の取り組み」

関西とイギリスのコラボレーションが 世界最高峰の教育を生み出す

司会:最後のテーマは「NLCS Kobe独自の取り組み」についてです。浩八代表はその特徴を、鈴木さんはそれを受けての感想をお聞かせください。

浩八代表:時代が急速に変化している中、IBは今の子供たちが身につけるべきソフトスキルを毎年リリースし、カリキュラムもそれに合わせてアジャストしています。
日本の学校でそうした取り組みをしているところは少ないので、まず大きな特徴の1つだと思います。

そしてもう1つが、日本人としてのアイデンティティを大切にしている点です。
子供たちが将来海外に出て、多様な人たちが集まるコミュニティで力を発揮するためには何が必要か。武器になるのは自分のバックグラウンドであり、日本人としての確固たるアイデンティティだと思います。

先日は清水寺で「日本の文化体験 教育ツーリズム by 清水寺×NLCS Kobe」というイベントを行い、20組の親子と一緒に清水寺の住職の読経を聞いたり、両足院で裏千家の家元に茶を点(た)てていただいて飲んだりしました。
そうした日本の文化や歴史に触れることも非常に重要です。

5月には盆栽の植え替えや剪定のワークショップを行うイベントも予定していて、なぜ盆栽は脈々と続いているのか、どこから入ってきてどういう変化をしてきたのかといった問いを、みんなで考えていけたらと思っています。

 

鈴木:私は神戸で生まれて、京都市の特別顧問にも就任していますが、やっぱり関西はすごいですね。
これまで世界のいろんなところに行きましたが、本当に素晴らしいと思います。

奈良、京都、神戸、大阪があって、横の繋がりもあるけど、2600年の時代を超えた縦の繋がりもある。
清水寺に行けば1300年くらいワープできますよね。ずっと繋がってきた場所だということを肌で感じられます。

今、インバウンドがものすごいことになっていますが、人々を魅了する“ザ・ジャパン”のエッセンスが関西にあることをもっと意識すべきです。

今回、NLCS Kobeの開校によって、イギリスと関西、双方のいいところを持ち寄って世界最高峰の教育を提供できるということは、非常に意味のあることだと思います。

学校の中だけで教育はできません。
私も6年間、毎日六甲山を見ながら通学していましたが、景色や環境が人間の心に与える影響は大きいと思います。

開校が楽しみですね。

浩八代表:最後にもう1つ。これからの時代、もっと早い段階で社会と子供たちが関わりを持つべきだと思っています。

AIやテクノロジーの進歩によって、今後知識の活用がどんどん求められていく中、例えば中高生が神戸の企業の仕事を体験できたり、企業が抱える課題を子供たちに考えてもらうなど、若いうちから社会との接点を持てる教育が大きな意味を持つようになるのではないでしょうか。

僕たちの世代は社会人になるために企業のことを調べて就職するというやり方でしたが、教育と社会は別物だという意識をなくしていきたいですね。

そうすることによってより産学が深く連携でき、双方にとってメリットがあると思っています。

今すでに神戸のいくつかの企業ともお話を進めているので、NLCS Kobeで学ぶ子供たちが早期に社会と関われるような取り組みを形にしていきたいと思います。

 

会場となったのは大阪のヒルトンプラザウエストオフィスタワー。
トークセッション後には質疑応答とエリザベット・グンジ副校長による日本独自のカリキュラムの説明も行われました。

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ウィリアムズ校長がNLCS Kobeのビジョンについて話しかけるウェルカムビデオが公開されています。
NLCS Kobeで、子どもたちがどのように特徴的な教育を体験できるのか、そして今年8月に最初の生徒たちを迎えることを心待ちにしているウィリアムズ校長の想いが伝わってきます。


この記事の記者

インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。

プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。

国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。