2014年01月01日
国内の英語教育・留学。そこから見えてくるインターナショナルスクールの姿。留学情報誌や教育情報誌などの出版および留学・英語教育の情報ポータルサイトなどを運営する株式会社トゥモローの天野智之氏にお話しを伺いました。
留学情報誌や教育情報誌などの出版および留学・英語教育の情報ポータルサイトなどを運営する株式会社トゥモローの天野智之氏にお話しを伺いました。
―――天野さんから見て、2013年はどのような変化がありましたか?
「英語」という視点で、学校・国・社会という3つの視点で振り返ると教育現場では、高校の英語授業の英語化がスタート、国による「トビタテ!留学JAPAN」による留学支援、さらに東京オリンピック開催が決まりました。
高校の英語授業の英語化以外にも、外国語活動として小学校でも「英語」が導入されています。
また、2004年の8万人をピークに6万人まで急激に減少していた日本人留学生に歯止めをかけるために留学支援策が打ち出されました。
これまで国として「留学生を増やさなくては」という考えはありましたが、「トビタテ!留学JAPAN」で国が本腰を入れたと感じます。
さらに社会的なインパクトとして、9月にIOC総会で東京オリンピック開催が決まりました。
「東京オリンピック」という共通の目標は、教育だけではなく、社会全体のコンセンサスを得やすいイベントです。
そのためオリンピックをひとつの通過点にすることで、そこから日本全体の英語力を底上げする「ターニングポイント」にできると考えています。
―――天野さんは、留学の最前線で活躍されてきました。この10年で留学関係はどのように変化しましたか?
バブル崩壊後の10年で、留学生が減りました。しかし、それは単に「減った=悪い」という図式ではない。
私は、むしろ減ったけど「質」が高まったのではないかと考えています。
90年代後半から2000年代前半の留学は、一種のブームのようでした。今となっては失われた20年とも言われていますが、まだまだ経済的にも余裕があったと思うので、比較的気軽に留学する人も多かった気がします。
しかしその後経済が停滞する中で、気軽な留学が減り、「留学しなければ」「留学の必要がある」という目的意識の高い留学へと質が変わったように思います。
確かに留学者数は減ったのですが、むしろ「絞られた」と考えても良いのではないでしょうか。意識も質も高い「留学」にシフトしたと考えています。
そのなかで、留学の多様化、多目的化が進んでいます。
従来の北米・ヨーロッパだけではなく、目的に応じて留学先の国数も増え、英語を学ぶ以外にポイントが置かれています。
たとえば、スポーツ留学や音楽留学、ボランティアのための留学があります。
これらの留学は、目的がはっきりしている分、生徒さんの伸びも高いようです。
80年代に留学していた世代が、現在、子育ての真っ最中です。
留学して得た経験は、子育てを通し、グローバル化を推進しています。
留学の目的が明確になる動きとともに、グローバル化の進展が小・中学生にも影響しています。
小・中学生の留学を私たちは「ジュニア」と呼んでいるのですが、ジュニア留学は①ボーディングスクール、②一般留学、③アジア留学の大きく3つに分けられます。
従来の寮のあるアメリカ、スイスなどヨーロッパ・北米地域の学校への進学です。
授業料以外に寮費もかかり、高いものだと年間一千万円近くかかるケースもあります。費用がかかりますが、高い教育・進学実績・同窓生ネットワークや学歴という意味で、昔から高い評価を受けてきました。
そのため、日本をはじめ世界の富裕層が子弟をボーディングスクールへ入学させています。
イギリスに1440年創設された英国の男子全寮制パブリックスクールのイートン・カレッジ(Eton College)。
13歳から18歳までの男子約1,300人(1学年約250人)が学んでいる。
ボーディングスクールは、授業料も高く、寮で生活するため、費用も高額になります。
そこで良い教育環境のためにカナダ・オーストラリアなどに滞在し、現地の公立学校に留学するケースもあります。
現地で、お子さんと母親が一緒に暮らし、お父さんは母国から仕送りをする。
この場合、お母さんが一緒のためお子さんも安心して学べ、費用もボーディングスクールより高くありません。
最近、増えているのがアジアへの留学です。
特にシンガポール・マレーシアに欧米系のボーディングスクールが分校を開校しています。欧米よりも費用が安く、分校ですが名門ボーディングスクールで学べます。
また、今後さらに経済力を増すアジアで同窓生ネットワークを構築することができるため、ボーディングスクールの良さとアジアの成長を組み込んだ留学です。
シンガポールに2014年8月に開校したDulwich College (Singapore) です。
イギリスにあるDulwich Collegeの分校です。
https://singapore.dulwich.org
――――留学も多目的、年齢別に多彩になっていることを実感します。そのなかで、天野さんから見て、国内のインターナショナルスクールに期待される役割とはどのようなものでしょうか?
大きくふたつあると思っています。
① 日本の公教育を変える
これまで「インターナショナルスクール」とは、特別な存在でした。これからは「インターナショナル」が当たり前の存在になるべきです。
日本の学校が「インターナショナルスクール」のようにならなくてはという意味ではなく、もっと身近な存在になるべきだと思います。
「インターナショナルスクール」が身近になった時、必ず日本の公教育にフィードバックがある。
双方とも新たな教育を見いだす機会になるはずです。
②インターによる外国人誘致
やはり、国際教育のインフラとしてインターナショナルスクールの役割は大きいと思います。
外国人が日本に駐在する時に複数の「インターナショナルスクール」を選べるのであれば、それは大きなポイントだと思う。
それは、従来の欧米系インターナショナルスクールだけではないと考えています。
例えば、インドを代表とするアジア型のインターナショナルスクールなど、多様化したインターナショナルスクールがさまざまなニーズをくみ取る。
また、日本の学校とミックスした教育もおもしろいと思います。
そうすることで10年後に、これまでにない「インターナショナルスクール」が生まれるのではないか?と期待しています。
新しいインターナショナルスクールは、小・中・高校だけではなく必ず大学にも波及すると思うのです。
大学の変化という点では、APUや国際教養大学が高い評判を呼んでいます。
しかし、APUも創立10年以上たち、国際教養大学ももうすぐ10年目を迎える。その一方で、このような大学が全国に波及していない。
いわば、秋田と大分に点在するだけです。面として全国に増えていない。この点でも、今後、インターの多様化は、日本社会にも、そして、必ず大学教育にも影響を与えると期待しています。
アジアに留学している学生は、今後さらに貴重な存在になると思っています。
現在、中国・インドをはじめとする新興国に留学している学生は、引く手あまたの状態です。
もちろん、新興国に留学している学生が日本の経済・文化の架け橋となってくれると期待されます。
―――実は、国内でもインド系・トルコ系のインターが増えています。彼らが母国に帰った後、日本との架け橋になってくれると私も大変期待しています。
そうですね。これまでの欧米が中心の世界から、アジア・アフリカ・南米と多くの国が急速に発展するなかで、それらの国にいる留学生と日本にいるそれらの国のインター生の流れは、いわば対流のようです。
将来、日本とこれらの国々を結ぶキーパーソンは、現地、また日本にいると考えるのが自然かもしれません。
そして、彼ら、彼女たちが20代、30代になる頃に東京オリンピックが開催される。
これは新たな流れをさらに引き出すイベントになると思います。そこからがさらにおもしろいと思います。
編集後記
ご自身の留学経験を踏まえ、英語教育、留学の第一線に立ち続けてきた天野さん。
インターを含めた日本の教育への提言。
それは、東京オリンピックの先にある私たちの将来です。
師走の多忙な中、天野編集長にお話をお伺いさせていただき、ありがとうございました。
この記事の記者
インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。
プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。
国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。
東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会ホームページより