2013年04月10日

千里国際と大阪インターが奏でるハーモニー(前半)

日本発の一条校とインターナショナルスクールがひとつのキャンパスで教育をおこなう関西学院千里国際キャンパス。シェアードプログラムで独自の進化を進めてきました。


 

「おもしろい授業は、生徒の意欲を引き出します」

赤レンガ造りの東京駅を見下ろす関西学院 東京丸の内キャンパスで取材は始まりました。

「うちの中学1年の科学の授業は、ほとんどが実験です。
 子どもたちは、おもしろいと感じれば、自ら学び始めます。
 最初におもしろいと感じる応用を積極的にもってきます。」

 関西学院千里国際中等部・高等部(以下、千里国際)の前身、千里国際学園は、1991年大阪に開校しました。

 開校当時から独自の教育は、注目を浴び、その後も高い評価を得てきた学校です。
 また、新聞をはじめ各メディアにおいても報道されることが多く、注目されている学校です。

 一般には「千里国際」という名称が広く知られていると思います。

 2010年に千里国際学園は、関西学院と合併しました。
 そのためキャンパス全体は、関西学院千里国際キャンパスと呼ばれています

 千里国際キャンパスに関西学院 千里国際中等部・高等部と関西学院 大阪インターナショナルスクール(以下、大阪インター)があります。

きっかけ

 以前から千里国際について、新聞などで知っていました。
 創刊後、インターナショナルスクールの取材を進めていくと千里国際の姿が際立ってきました。

 一般生、帰国生、外国籍生徒が入学でき、インターのような手法を導入。
 それでいて日本の私立学校。
 (しかし、取材を通し、千里国際と大阪インターの教育は、独自の進化を遂げていることがわかりました。)

 20年以上も前に、創設されたことにその先見の明にも驚きます。

 そして、今回、東京の関西学院東京丸の内キャンパスで、個別相談会があることを知り、取材の申し込みをさせていただきました。

大阪府箕面市にある校舎  ここで千里国際と大阪インターナの生徒が学ぶ。

 

日本で初めて日本の学校とインターナショナル スクールが合同で教育をスタートさせた学校です。

 現在のグローバール化の進展、社会構造の変化にともない、ますます千里国際の教育は、重要となっています。

 その証に、文部科学省でも、千里国際の教育がたびたび取り上げられています。*1
 
 取材は、関西学院 東京丸の内キャンパスで、取材をさせていただきました。

 余談ですが、千里国際の入学試験は、日本だけではありません。
 海外生入試は、ロンドン、シンガポール、ロサンゼルス、ニュージャージーでも開催されています。
 入学試験の段階で、まさにグローバル。

 今回、眞砂校長のインタービュー掲載にあたり、まず千里国際について基本的な説明から始まります。

 なぜなら、千里国際の教育は、従来の「学校」という発想とはまったく異なるからです。
 予備知識を入れてから、インタビュー記事を読み進めていくと、さらにわかりやすいと思います。
  *1 文部科学省中央教育審議会 
  「今後の高校教育の在り方に関するヒアリング」(第1回)について
   http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/arikata/detail/1299934.htm
  「高等学校教育部会(第4回) 議事録」
   http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/gijiroku/1319354.htm
  「高等学校教育部会(第4回) 配付資料」
   http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/siryo/1316067.htm

タイムズの視点

 千里国際に関する新聞記事を読んでいくとひとつの疑問が浮かび上がります。
 大阪府による英語試験結果、TOFEL-iBTの試験結果などの記事で「千里国際は、特別な英語環境だからできた」という記事になっています。

 確かに他の学校にくらべ、帰国生が多いのは事実でしょう。
 しかし、データによると外国籍生や一般生も多く入学し、さらに一般生も結果をだしています。

 この一般生への手法を日本の学校が取り入れることはできないのでしょうか?

 千里国際の校内誌「INTERCULTURE」で教頭の井藤眞由美先生が「大阪府実践的英語教育」強化事業でデモ授業を行い、その感想を次のように述べています。*2

 この授業はどの高校でも実施可能なはずだと思います。
 ただし、そのためには少人数クラス・優秀なネイティブ教員・
 教科書システムの改革が必要ではないでしょうか

 また、国も文科省の中教審を通し、千里国際の教育内容を取り込もうとしています。

 千里国際も積極的に教育内容を公開し、少しでも多くの教育機関、保護者、生徒の参考となるように活動をしています。
 大阪府 平成24年4月21日 「実践的英語教育」強化事業推進フォーラムにおいてデモンストレーションを行った。 
 http://www.pref.osaka.jp/attach/4475/00036194/forum_2.pdf

千里国際 3つポイント!

1、「Two Schools Together」 

 千里国際と大阪インターは、同じ敷地、校舎です。
 そこで帰国生と一般生、外国籍生徒が中学、高校のカリキュラム教育を学ぶのが千里国際です。

 一方、主に外国籍生徒を対象とする大阪インターは、幼稚園から高校までのカリキュラムがあります。

 両校は、一部の授業、体育祭や文化祭などの学校行事、クラブ活動、生徒会活動などを合同で行っています。
 (もちろん、この試みは日本初)

 また、サッカーなどのチームスポーツなどは、両校合同でチームを編成し、インターナショナルスクールのリーグに参加しています。

 授業とクラブ、生徒会、行事活動を含め、学校生活自体が日英バイリンガルな環境です。

2、キャンパス全体がバイリンガル環境

 では、英語のできない一般生は、どうしているのでしょうか?
 千里国際の授業は、日本語と英語で行われています。

 また、クラブ活動、生徒会なども大阪インターと合同です。
 もちろん、校舎も同じ。

 そのため教室をはじめ、廊下、食堂、運動場などあらゆる場所で、英語、日本語が飛び交います。

 いわば自然と英語でのコミュニケーションが増える環境です。

 このようなキャンパス環境と千里国際の英語カリキュラムによって、一般生の英語力はかなり高くなります。

 2011年のTOEFL-iBTでは、一般生、英語以外の言語で学習した生徒でも約58点という点数がでました。*3

 また、帰国生は、約76点、ネイティブレベルの生徒は、約96点でした。
 120人全体の平均点は、72点。

 一般的にアメリカ合衆国の大学の学部レベルの留学にはTOEFL-iBT61点~80点、大学院レベルで80点~以上の成績が目安とされています。

 ちなみに利根川進、小柴昌俊、下村脩、根岸英一などノーベル賞受賞者を輩出している「フルブライト奨学金」。

 2010年度 大学院プログラムでは、TOEFL-iBTで80点以上が応募条件です。*4

 いかに千里国際の生徒のレベルが高いか物語るエピソードです。
  *3 大阪府 「実践的英語教育」強化事業
 http://www.pref.osaka.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=9657

 朝日新聞 大阪府「実践的英語教育」関連記事
 http://www.asahi.com/kansai/sumai/news/OSK201205110030.html
 *4 日米教育委員会 フルブライト奨学金(学術系学位)留学プログラム
 http://www.fulbright.jp/scholarship/education.html

3、シェアードプログラム

 英語を学ぶのではなく、英語で各教科を学ぶことを英語イマージョンと呼びます。

 国際バカロレアなど国際的カリキュラムを導入している日本の学校では、英語イマージョンで行われていますが、千里国際はさらに深いアプローチを取っています。

 大阪インターとの合同教育のため、イマージョン及びシェアードプログラムと書くほうが正確でしょう。
 具体的には、美術・音楽・体育の授業を一緒に受けます。
 もちろん、学校行事も一緒。
 いろいろなことをシェアする。
 だからシェアードプログラム。

 ここが千里国際と大阪インターがともに切り開いてきた教育です。

 

千里国際と大阪インターの各略称は、下記のように使い分けています。

 千里国際はSIS  Senri International School of Kwansei Gakuin の略
 大阪インターはOIS Osaka International School of Kwansei Gakuin の略です。

 両方を表記する時は、SOISと表記しています。
 SIS+ OIS=SOIS という式ができあがります。

 まさに「Two Schools Together」こそSOISなのです。

タイムズの視点

 日本の教育、インターナショナルスクールの良いところを併せ持ち、さらにシェアードプログラムによって進化させた学校です。

 インターナショナルスクールは、歴史的に外国人の子どもの教育機会を提供するために創設されてきました。
 高度成長期には、帰国生の増加、グローバル化の進展とともに各地にインターの創設が進みました。

 90年代以降は、構造改革特区によるインターの設置が増えました。*5
 特区型インターは、主に日本人を対象とし、学校法人をはじめ、第三セクター、株式会社などが運営しています。

 しかし、千里国際は、構造改革特区がない平成3年に設立されています。

 20年以上の実績を見れば、特区でなくとも、質の高い教育ができることを示しています。

 また、当時から大阪インターとシェアードプログラムを実施してきました。

 インターではなく、一条校として、私立の中高として、成果を出してきた千里国際。*5

 今後を含め、日本の教育においてキーとなる学校です。
 *5 一条校 学校教育法の第1条に掲げられている教育施設の種類およびその教育施設のこと。 日本語ウィキペディアより
 http://ja.wikipedia.org/wiki/一条校

歴史で大事なのは「今」

眞砂校長

関西学院東京丸の内キャンパスでお話をお伺いさせていただきました。

 

生徒には日本史も世界史も、なるべく現代から取ってね、とアドヴァイスしています。*6
なぜなら、今のことをわかっているから、過去のことを考えられると思うのです。
現代史で現代を理解して、その上で過去がどのようにつながっているのかわかる。
歴史を学ぶ上で、むしろ一番大事なのは「今」なんだよ、と。

一般的な教え方とは、逆ですね。
日本史だとほとんど神話からスタートします。
だから、どうしても頭に入れていくためには、暗記をする必要があって「1192年つくろう鎌倉幕府」と語呂で覚えたりしたのを思い出します。

日本史を教えているのは、実は、インド人の先生ですが、彼が鎌倉幕府の授業をするとしたら
『君が鎌倉幕府の将軍だったら、この社会状況でどのような政策を行ないますか』というアプローチを取ると思います。 *7

将軍の発想ですか?

『社会状況から、こんな危機が起こりそうだ。さて君だったらどのような政策を打ち出すかな』というようなアプローチの授業です。

どのような政策ができるか…。そうすると、当時の税金の取り方から、幕府の運営方法などさまざまなことを調べないと答えられないですね。

そこから調べていったり、その場でディスカッションを始めたり、当時の将軍がおこなった政策が果たして正しかったのか、など掘り下げていきます。*8

そうするとディスカッションなど含め、毎回、生徒の考えや意見は違うし、場合によっては突拍子もない意見も出てくると思います。

出てきます。
でも、そこで先生が『そうだね、そんな答えもあるね』と流してしまっては、ディスカッションも成り立たなくなってしまいます。
むしろ、そこからディスカッションが始められるような先生の力量が問われるわけです。 
突拍子もない意見でも、授業に引き込める先生の力量です。

 

そうすると先生の頭のなかでは、生徒のさまざまな意見をまとめながら、次の展開を考えていないと進められないですね。

そうですね。生徒の意見をまとめながら、ある意味で、次の展開に誘導していく力が必要とされます。
生徒の意見によっては、突拍子のない方向へどんどん流れていきますから。
流れすぎないで、そこらへんをどうまとめるか。
そして、『現実には将軍は、このような政策をとったんだよ』というところへつなげていくわけです。

まるで落語のようにお客さんの雰囲気や時事ネタなど含めて臨機応変に話を展開していくようです。
でも、授業の進め方によっては、まったく想像しないところに流されてしまう可能性があるとなると、先生も大変ですね。

大変ですね。
生徒が何を言い出すかわからないから、準備のしようがないんです。
だから、瞬時の受け答えはもちろん、先生の広い知識、頭のやわらかい先生でないとこのような授業は成り立たないですね。
実は、私は理科の教員なのですが『一緒にどうなるか考えてみようか』という姿勢になりました。
いろいろな実験をしながら考える、生徒と一緒に考えるという姿勢です。
授業の半分以上、実験を取り入れている先生が多いですね。

お話を聞いているとおもしろい授業は、生徒が考えることで成り立っているとわかってきました。
だから、応用力もつくわけですね。

*6 自由選択制ついて
1学期の中で効率良く授業を組むために、生徒達がそれぞれ、自分の取りたい授業を選ぶ。
詳しくは、千里国際のホームページを参照
http://www.senri.ed.jp/site/index.php?option=com_content&view=article&id=68&Itemid=367&lang=ja

*7  日本史のインド人の先生
実はかなり有名な先生で、日本の大学、大学院で日本史を専攻されていました。
JALの機内誌でも先生の授業の様子が掲載されています。
http://www.kwansei.ac.jp/news/2012/news_20120806_006635.html
*8  少人数制
千里国際の授業は、上記の自由選択制もあり、ほとんどのクラスが24人以下で行なわれている。10人以下のクラスも少なくない。
眞砂校長の話では、正直なところ特に英語ネイティブの教員の場合18人を超えると先生から少人数の良さを活かせなくなると話がくることが多い。
それほど授業の質に力を入れている。

インターナショナルスクールとの合同教育

現在、英語でさまざまな教科を学ぶ「英語イマージョン・プログラム」が採用されています。

千里国際は、大阪インターとともに「英語イマージョン・プログラム」からさらに進化した手法「シェアード・プログラム」を作りました。
今回は、その「シェアード・プログラム」についてクローズアップしてみます。

千里国際と大阪インターを合わせ、全校生徒約720人の学校です

 720人の生徒がひとつの校舎を共有しているので、生徒はみんな顔見知りだと思います。
 千里国際は中学から高校までの生徒が通い、大阪インターは幼稚園から高校までの生徒がいますが、みんなひとつの校舎で学んでいます。
 だから、大阪インターの子も、千里国際の子も(幼稚園から高三まで)みんな顔見知りなんです。

それを活かしたのが、各科目の学習方法です。
インタビューでは、「絵本の読み聞かせ」の授業の話になりました。

 

 英語もシェークスピアを読む授業から、心理学のような授業もあれば、映画で使われている台詞を研究する授業など幅広くあります。
 もちろん、文法などの授業もあります。
 学期完結制という仕組みのなかで、英語の先生が、どんどん自由な発想で授業を開設していきます。 *10
 それをまとめて一覧にして、生徒に自由に授業を選択してもらうわけです。
 高校の英語の授業のひとつに「絵本の読み聞かせ」というのがあります。
 正確にいうと「絵本を創って、読み聞かせる」という授業です。
 まず最初に絵本を創るところから始めます。
 そして、最終的にいつも廊下ですれ違う大阪インターの子どもに読み聞かせる授業です。
  *10 学期完結制 千里国際が大阪インターと共同開発した学期制。この学期完結制の導入により、大阪インターの授業を受けることができる。
  http://www.senri.ed.jp/site/index.php?option=com_content&view=article&id=68&Itemid=367&lang=ja
 2012年に文部科学省は、千里国際を国際バカロレアの調査研究校に指定した。これにより、千里国際の生徒が大阪インターの国際バカロレアのDPを修得に向けて動き出した。
 文部科学省リンク http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoiku_kenkyu/__icsFiles/afieldfile/2012/12/10/1328711_01.pdf

4400キロの遠征試合

クラブ活動でも千里国際と大阪インターならではエピソード

クラブ活動もそうですが、千里国際と大阪インターの生徒が一緒にクラブ活動をします。
チームを組むスポーツでは、千里国際と大阪インターがひとつのチームを編成します。
また、クラブ活動は、インターナショナルスクールのリーグに加盟しているので、海外遠征もありますよ。

 

「海外遠征」といっても、そんなに大げさな試合ではないのですが、 今年は、ミャンマーのインターナショナルスクールと試合があります。
 もちろんミャンマーに遠征しますよ。 
 WJAAとAISAというインターナショナルスクールのリーグに加盟しています。
 AISAにミャンマーのインターナショナルスクールが加盟しました。
 それで昨年、ミャンマーの学校がうちに来て、試合をしました。
 今度は私たちが遠征する番です。 
 ウィキペディア ミャンマー
 *ちなみに大阪からミャンマーの首都ヤンゴンまで約4400㎞
 http://ja.wikipedia.org/wiki/ミャンマー

WJAAは西日本のインターナショナルスクールのリーグ、AISAはアジアのインターナショナルスクールのリーグです。
ミャンマーというので、どのように海外遠征するのか聞いてみました。

 海外遠征といっても、プロのようなイメージとは違いますよ(笑)。
 学校のクラブ活動なので生徒間の交流も大切です。 
 海外遠征の時は、相手チームの家にホームスティーをしながら、試合をします。
 だいたい2泊3日というスケジュールになるのですが、その間、試合相手の生徒の家で寝起きして試合をします。

ホテルではないのですね。

 そうです。この場合は、ミャンマーの生徒の家に泊まらせてもらいます。
 住んでいる場所も日本とミャンマーではまったく違いますが、同世代、同じスポーツをしている同士、話が合うようです。
 もちろん、ホームスティーで相手の生活に触れてきます。
 逆に日本に来てもらった時は、うちの生徒の家にホームスティーしてもらいます。
 ホームスティーは、もちろん経済的ですし、なにより相手の国や文化など生活レベルで知ることができます。
 試合も楽しみですが、このホームスティを含めた交流がおもしろいと思います。 

 

自分をプレゼンテーション

これは、学校に入ってすぐのところです。

眞砂先生は、ipadから一枚の写真を見せてくれました。

 ちょうど正面玄関のホールですが、生徒たちの作品が並んでいました。

 このホールでは、急に音楽の演奏が行なわれていたりします。
 ゲリラ的に自由に発表する舞台として使われています。
 さて、これは英語と美術がコラボした授業ですが、自分が興味のある人物ついて調べて、文章にして器に表現するという内容です。

 

ある人物について調べて、文章にして、さらにその人を表現する器を作り上げたのが並んでいました。
ほかにも俳優のジョニー・デップさんなどが見えます。

 (先生も笑いながら)これは、もうプレゼンテーションですよね。
 自分が興味ある人物についてどう表現するか?
 それがここに詰まっているわけです。
 実は、このような授業はたくさんあります。
 自分で興味あることを調べ、形にして、さらに発表する。
 うちの先生たちも生徒たちが自分で調べるということとても大切にしています。
 さらに、そこからなにかしらのカタチにして、表現するということが重要だね、と。
 だから、学校では、このホールにしてもそうですし、廊下などいろんな展示がされています。

 

 この授業もそうですが、美術の授業といっても、日本の授業とはまったく違うと思います。
 このように絵も描いたりするし、物を作る授業もありますが、建築の要素を入れた授業もあります。
 決まった型のようなものがないので、先生が自由に授業を開設していきます。
 ここのスティーブ・ジョブズもそうですが、その人物など「調べる」というのがとても大事です。(眞砂先生のipadで写真を見ながらインタビューが進みました。)
 スティーブ・ジョブズについて調べるもこともしますが、さらにどのようにこのipadなどが作られているのか、アップルという会社がどのような会社なのかについても生徒は、調べていると思います。
 ここでスティーブ・ジョブズについて調べて、それを社会科の授業で発表することもあると思います。

授業で調べたことが、そこで終わりではなく、そこから先につながること。
それが応用力につながっているのがわかります。

また、千里国際と大阪インターによる「シェアード・プログラム」は、双方が持つ良さをさらに引き出し、相互に高めあっている様子がわかります。

シーズン制クラブ活動

そのため日本の学校と大きく違います。

 

 千里国際のクラブ活動は、シーズン制を採用しています。
 世界各国のインターナショナルスクールと同じです。
 例えば、高等部の生徒だと春の前半(1月から3月まで)、男子も女子もはサッカーまたはバドミントン、春の後半(4月から5月まで)男子がバトミントン、卓球、女子がソフトボール、卓球とシーズンによって、参加できるクラブ活動も違います。 
 シーズン制なので、そうですね、日本の学校のように「高校3年間、ずっと野球一筋で甲子園を目指す」というクラブ活動ではありません。
 また、大阪インターと一緒なので、大阪インターの先生が顧問をしている場合もありますし、うちの先生も顧問をしています。
 どちらの生徒も参加しているので、クラブ活動の指導も英語が多くなると思います。 いろんなスポーツやクラブ活動を体験することが重要と考えているからです。

 

なぜシーズン制を取り入れたのでしょうか?

 うちの教員からすると逆に「高校3年間でひとつのスポーツやクラブしか体験できないのは、もったいない」といいます。
 中学・高校時代にひとつのスポーツやクラブ活動を選ぶことは、他のスポーツやクラブ活動を経験するチャンスを捨てている、と。
 これは授業もそうですが、クラブ活動もいろいろな経験をしてほしい。
 在学中にひとつのクラブ活動だけではなく、さまざまな種類のスポーツやいろんなクラブ活動を体験することが大切だと考えています。
 だから学校は、生徒にどれだけたくさんの機会を提供できるか?が大事だと思うのです。

 

うちでは、授業は、もちろん、クラブ活動も生徒が自分で選んで選択します。 
だから、授業も自由選択制という生徒ひとりひとりが選べる授業制度を導入しています。

なお、トライアスロン、ランニング、水泳は、年間を通し、全員が参加できます。
また、文系のクラブも年間を通し参加することができます。

国際バカロレアについて

クラブ活動などだけではなく、美術・音楽・体育の授業も大阪インターと一緒です。

 もちろん、これ以外にも受けることができます。
 例えば、英語の授業だとネイティブレベルの生徒は大阪インターの授業を受けますし、その逆もあります。
 大阪インターの生徒が千里国際の国語(日本語)の授業を受けることもあります。
 相互に授業を受けることができるようになっています。
 大阪インターは、国際バカロレアの認定校ですが、千里国際の生徒が国際バカロレアの科目を受けることもできます。
 実は、千里国際の生徒のうち10パーセント前後は、DPを修得できるレベルです。
 しかし、日本の学校として(* 学校教育法により、学習指導要領が定める内容を教えなければならない)DP修得を認めることができません。
 DPの修得ができるのに、制度上できない。
 そこをなんとかクリアできないかな、と思っています。

授業の自由選択や無学年を含め、大阪インターと合同教育ができる背景には、独自のシステムがあります。

それが学期完結制です。
日本初の日本の学校とインターナショナルスクールの試みから四半世紀。
千里国際は、英語で教えるというイマージョンプログラムからさらに進化したシェアードプログラムを実施しています。

シェアードプログラムとは、大阪インターと一緒に授業を受けることができるプログラムのことです。

実は、大阪インターの授業を受けるといっても、9月入学の大阪インターと4月入学の千里国際では、内容を含め、単位として取得できる仕組みがまったく違いました。

その問題点を解決するべく生まれたのが、学期完結制です。
いわば大阪インターとの互換性をさらに高めるために生まれたシステムともいえます。 
この学期完結制の導入が千里国際をさらに独自の学校へ進化させました。

最近、新聞やテレビで国際バカロレアが大きな話題となっています。
千里国際は、大阪インターとの合同教育により、修得できる環境です。

実はインタビュー後、千里国際は文部科学省より「国際バカロレアの調査・研究校」に指定されました。

これにより、千里国際の生徒が国際バカロレアのDPを修得できる可能性がぐっと近づきました。

常に時代の変化に柔軟に対応してきた千里国際。

国際バカロレアのDP修得ができるようになるとさらに千里国際の独自性が高まります。

なぜ、大阪インターと シェアードプログラムが 実施できるのか?

インターナショナルスクールでは年間スケジュールに大きな違いがあります。

しかし、千里国際では、大阪インターと合同授業などシェアードプログラムを実施しています。

なぜ、千里国際と大阪インターでは、シェアードプログラムが実施できるでしょうか?

その理由は、千里国際と大阪インターが同じサイクルで運営されているからです。 
それが「学期完結制」です。
学期完結制には3本の柱があります。

 

3本の柱、学期完結制、自由選択制、無学年制について見ていきましょう。

1年間に春(4月)、秋(9月)、冬(12月)と学期あり、1学期が60日のサイクルでまわっています。

1学期で、ひとつの授業が終わります。(*国際バカロレアの授業など 1年間の授業もあります)
だから学期完結制と呼ばれています。
この学期完結制のポイントは、年に3回新しいスタートが切れることです。

そのため、世界各地からの帰国生や編入生、留学を希望する生徒がすっと入ってこれます。

 
 

例えるならば、60日で一回転する大なわとびにタイミング良く入っていく感じかもしれません。

大阪インターも同じカレンダーで動いているので、授業の乗り入れも便利です。
前回のシーズン制クラブも学期完結制と連動しています。
千里国際の生徒が大阪インターの国際バカロレアの科目を修得できるのも、学期完結制があるからです。
(現在、千里国際は、文部科学省の国際バカロレアDPの研究指定校です。
 そのため、生徒の国際バカロレアDP修得へ向けた研究が始まっています。)

自由選択制とは

1学期が60日のサイクルでまわっていますが、さらにその中の授業を選ぶことができます。
7つのブロックで構成された授業時間には学校が提供する授業が一覧にされています。

 

例えば、ブロックⅠの授業を選択すると月曜日は1限目。火・水曜日は、3時限目に受けます。木曜日は、2限目、金曜日は6時限目と受ける時間帯が変わります。

 

必修科目はもちろんありますが、それ以外の選択科目では、自分の取りたい授業を選びます。
また、得意分野や好きな授業をのびのび学ぶことができます。

自由選択制のポイントは、もちろん先生にもあります。
生徒が自分で選ぶため、活気のある授業となり、先生の創意工夫が引き出されるところにもあります。  

無学年制とは

自分で取りたい授業を選んでいくとひとりひとりの時間割ができます。
無学年制により、海外からの生徒も、留学から戻ってきた生徒も、日本の学校制度に合わせるために留年などをする必要もありません。   

この学期完結制、自由選択制、無学年制の組み合わせが「千里国際」をさらに進化させました。  
では、具体的に生徒たちはどのように学校生活を過ごしているのでしょうか?

 
 

毎学期授業を自分で選びます

特別なカリキュラムを用意するという発想ではなく、授業を選ぶこと自体、生徒に任されています。

 自由選択制といいますが、授業を自分で選びます。
 海外から帰ってきた生徒だと『前の学校でも同じようなことをやっていました』という子もいます。
 ただ選べる授業がかなり多いと思います。
 逆に『取りたい授業が多くて困ってしまう』といううれしい悲鳴を聞くこともあります。

自由選択といっても、現実的にはどのように選んでいくのでしょうか?  

日本の学校でも、文系・理系で決められた枠のなかから授業を選ぶ学校もあります。
うちでは、ひとつひとつのレンガを積み重ねるように自分で授業を選んで、積み重ねていきます。

高等部1年生 Grade 10 春学期のサンプル時間割り 中等部に一般生入試で入学した生徒。

中等部に一般生入試で入学した生徒。 必修科目を中心に、高等部1年生の標準的な時間割。  金曜日 1時間目はweek1が体育、week2が音楽。

 

 授業を選ぶ時に、生徒は頭の中で、前の学期にとった授業のどこがおもしろくて、どこがおもしろくなかったのか考えています。
 そして、その上のアドバンスドクラスに進むべきか…または、自分の人生において、例えば数学はここでやめるべきなのか、など決断しながら授業を選んでいきます。  
 正直、生徒にとってかなり大変なことだと思います。
 しかし、授業をひとつひとつ選択することで、結果的に将来自分がなにをやりたいかが、浮き彫りにされると思います。

授業の選択で生徒はかなり悩むと思うのですが…

 もちろん、『この授業は好きだと思ったけれど、自分にあまり向いていないな』と感じたり、『この学期は苦しいけれど、将来これをやりたいから、がんばって次の授業をとらないと』と思うこともあると思います。
 授業の選択で悩んだときは、担任の先生や授業を教えている先生だけではなく、カウンセラーや私にも相談にきます。
 そんな時は、例えば、数学なら『今は図形が多くて、君には大変かもしれないけれど、次は君の好きな計算の部分もあるし、微積になると君には向いているかもしれないよ』とアドヴァイスをすることもあります。
 また『数学Aは論理的だから文系の君の役に立つこともあると思うよ』と話すこともあります。

授業選択について眞砂先生は、次のように書かれています。

もちろん、生徒たちは授業選択のなかで失敗し、試行錯誤を繰り返すだろう。
将来を考えながら学習計画を組み立てていくうちに、少しずつ自分を見つけることになる。

ひとつの授業の選択~小さな決断の積み重ね~がひとりひとりの人生を浮き彫りにしていく様子がわかります。

実は、この学期完結制の導入時に教務を担当されていたのが現校長の眞砂先生です。
当時を振り返り、次のように書かれています。

 1996年に教務に関わって知ることになるのだが、この学校の時間割は恐ろしく複雑で、改善の余地がなかった。
 その原因のひとつが、まさにシェアードの授業(現、千里国際と大阪インター共通の授業)だった。
 ふたつの学校が別々に時間割を作るなかで、シェアードの授業を学年別に、教科別に一致させなければならないのは、至難の業だ。

そこからまずは理科だけの改革から学期完結制へと結びついていきました。
学期完結制を導入する過程は、現在、学級崩壊などで苦しむ教育関係者を勇気づけるエピソードだと思います。
担当者として不安に駆られ、布団をかぶりながら、ジョン・レノンのIMAGINを何度もリピートして聞いて勇気を得たエピソードを含め、当時の学校関係者がどのように議論を尽し、改革へと進んでいったのか「学期完結制とその経緯」をぜひ参考にしてください。

教育問題が社会問題となっている今こそ、壁をぶち破った教育者の後ろ姿に勇気をもらう時なのです。

今回、特別に「学期完結制とその経緯」ファイルLinkIconをダウンロードできるようにさせていただきました。

「学期完結制とその経緯」の巻末には、生徒のアンケート結果も記載されています。
生徒が当時、どのように感じたのか、学期完結制の導入後の検証がされています。

授業サンプル

高等部2年生 Grade 11 
アメリカからの帰国生徒。
英語はネイティブクラス(大阪インター)を履修。
日本の大学受験のため現代文や古典も履修。昼食はフレックスタイムの20分のみ。

高等部2年生 Grade 11 アメリカからの帰国生徒。 英語はネイティブクラス(大阪インター)を履修。日本の大学受験のため現代文や古典も履修。昼食はフレックスタイムの20分のみ。

 

高等部3年生 Grade 12
文系科目を中心に音楽や体育などもバランスよく履修している。
空き時間は図書館等で自学に使う。

高等部3年生 Grade 12  文系科目を中心に音楽や体育などもバランスよく履修している。  空き時間は図書館等で自学に使う。

 
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この記事の記者

インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。

プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。

国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。