2017年06月26日
アジアと比較し、ヨーロッパは数学教育が発達してきました。16世紀から「会計の父」という別名で知られるルカ・パチョーリを筆頭に多くの数学者を現代まで輩出してきました。ポーランドの中学校が学ぶ数学の授業を取材してきました。ポーランドの算数の授業から日本の授業と何が違うのか?チェシェック記者のレポートです。
まず、ヨーロッパと日本の教育の大きな違いとして挙げられることは「落第」があることです。
これは、駐在員など永住者でない家族であろうが関係なく、査定されます。
勿論、私の住む国ポーランドでも落第のシステムがあります。
では、落第の対象になる生徒とはどんな生徒でしょうか。
落第査定の対象科目
・数学 (matematyka)
・ポーランド語 (jezyka polskiego)
この2科目で「1」=落第の評価を得ると進級が出来ません。
落第の対象科目として国から指定されるほどポーランド人にとって数学は重要視されている科目なのです。
ポーランド人も通知表があります。
EU加盟国であるため、ポーランド語と英語の2か国語で表記する学校が多いようです。
評価方法は1~6までの数字で表されます。
1・・・落第
2・・・落第ではないが、劣
3・・・良くもなく、悪くもない
4・・・良い
5・・・優れている
6・・・素晴らしい
※各評価、+・-・=を用いて細かく表記されます。
(例)
2ー ・・・1に近い2
2+ ・・・3に近い2
2= ・・・2
学校は1=落第を取る生徒を出さないよう、生徒に1の評価を出す前に追試や面接を行い、慎重に査定をします。
基本的に学校も落第者を出したがりません。
ですが、稀に落第者は出ます。
落第者を出さないようにポーランドでも毎日宿題を出し、補習が必要な生徒には追加で授業を行って他の生徒との学力に差が出ないよう取り計らいます。
ポーランドでは各学校で科目履修時間やカリキュラムを決めることが出来、あまり学力と関係のない倫理や宗教の授業を補修に充てたり臨機応変に対応することが可能です。
一番上のzachowanieは生活態度・行動など素行を表しています。
今回は中学生の数学の授業に参加してきました。
授業内容:「幾何学」(メインはグラフ)
学年末の授業ということもあり、校長先生が直々に授業をしていました。
(日本ではあまり校長・教頭職が教鞭を執ることが少ないように感じます。)
授業が始まる前には、いかにもやんちゃそうな生徒でも着席し、真面目な雰囲気でした。
授業が始まって最初に驚いたこと。
それは、授業時間の半分を数学者「レオンハルト・オイラー」について歴史の授業並みに細かく学んだことです。
取材しながら「レオンハルト・オイラー」につて昔の記憶を辿っても何も出てきませんでした。
周りを見渡すと、みんな誰だか知っている様子です。
こちらが今回の授業に出てきたレオンハルト・オイラー。
主に解析学で名をはせた数学者です。スイスの紙幣10フランにも印刷されていました。
レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)は18世紀の数学者。
スイスのバーゼルに生まれ、現在のロシアのサンクトペテルブルクにて死去した。幾何学においては、位相幾何学のはしりとなったオイラーの多面体定理(ただしオイラーは証明を与えていない)や「ケーニヒスベルクの橋の問題」が特に有名である。特性類の一つであるオイラー類は本質的にこのオイラーの多面体定理によって特徴付けられるものである。
「ケーニヒスベルクの橋の問題」は一種の一筆書き問題であるが、オイラーはこれに取り組んで一筆書きが可能になるための必要十分条件を求めた。
レオンハルト・オイラーは幾何学においては「ケーニヒスベルクの橋の問題」が有名です。
授業ではレオンハルト・オイラーがどのように「ケーニヒスベルクの橋の問題」でグラフに置き換え、「一筆書き」できないことを証明したのかを説明していました。
プレーゲル川に架かる7つの橋。 ケーニヒスベルクの問題より
18世紀の初めごろにプロイセン王国の東部、東プロイセンの首都であるケーニヒスベルク(現ロシア連邦カリーニングラード)という大きな町があった。
この町の中央には、プレーゲル川という大きな川が流れており、七つの橋が架けられていた。
あるとき町の人が、次のように言った。
「このプレーゲル川に架かっている7つの橋を2度通らずに、全て渡って、元の所に帰ってくることができるか。ただし、どこから出発してもよい」
町の人が言ったことはできるだろうか。1736年、レオンハルト・オイラーは、この問題を以下のグラフに置き換えて考えた。
このグラフが一筆書き可能であれば、ケーニヒスベルクの橋を全て1度ずつ通って戻ってくるルートが存在することになる。そして、オイラーは、このグラフが一筆書きできないことを証明し、ケーニヒスベルクの問題を否定的に解決した。
プレーゲル川に架かる7つの橋の構造と「ケーニヒスベルクの問題」について解説する校長先生
一筆書きができるのか、授業をする校長先生。
一筆書きの説明と生徒たち。
授業が終わった後に「数学は好きですか?」とクラス全員に訊いてみたところ、「好きなわけないじゃない!嫌いよ!」と大ブーイング。
嫌々と言いつつも、全員の問題解答時間は早いのが印象的でした。
ポーランドには情報工学・計算機科学など情報技術専門の大学が多く設置されております。
職業訓練学校でも情報処理技術を学ぶ学科がポピュラーであり、国家としてIT教育に力を入れています。
ポーランドでは大手外資系IT企業の下請け会社やブランチがポーランド国内に進出しており、多くのポーランド人が活躍しています。
では、なぜポーランドに進出をするのか。
1つ目はポーランド人のプログラミング技術が世界トップレベルで優れていることが結果で出ているからです。
そして2つ目は下記のランキング "Which Country Has the Best Developers?"のトップ3で唯一ラテンアルファベットを使用している国だからです。(ロシアはキリル文字、中国は漢字)
hackerrank.comが調査した"Which country has the best developers?"では、ポーランドが第3位に入っています。
第2位のロシア、第5位のハンガリー、第9位のチェコと東欧が上位にランクインしています。
各コンピューター言語などでも上位に入っています。
ポーランドの求人情報サイトを検索してみると求人のほぼ8割がIT企業です。
募集要項にはプログラミング経験者、情報処理技術専攻であることが必須条件として挙げられています。
また、大手企業では英語・ポーランド語に加えて第3言語がfluently(流暢に話すことが出来る)であることも求められます。
勿論、所得も大手企業はポーランド人平均所得の約2倍が保障されている企業も多く存在します。
成人しても親・祖父母・叔父伯母などと同居が未だに一般的であるポーランド人ですが、一人暮らしやルームシェアに憧れる最近の若者にとってこのような経済的に豊かで安定した条件は魅力的であるのでしょう。
ポーランドの算数教育がITで実を結ぶ姿。
チェシェック記者ありがとうございました。
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実際の小学校の成績表(筆者提供)