2023年10月10日

2050年にアジアにルーツを持つ世界的な教育のプラットフォームを。学校法人C2C Global Education Japan 古屋理事長独占インタビュー

モンテッソーリ・スクール・オブ・トウキョウ(以下、MST)は、モンテッソーリ式のインターナショナルスクールとして幼小中(18ヶ月から15歳まで)の教育課程がある共学のスクールで、現在、35ヵ国以上の国籍のある生徒が学んでいます。弊誌の取材に対し、山梨学院グループを運営する学校法人C2C Global Education Japanは、東京都港区にあるMSTの経営権を取得したことを明らかにしました。


2050年にアジアにルーツを持つ世界的な教育のプラットフォームを

世界展開を進める学校法人C2C Global Education Japan の古屋光司理事長は、弁護士として活躍し、現在は学校法人の理事長を務める。

 

少子化で社会に閉塞感が漂う中で、世界に目を向けると中国14億人、インド14億人と人口が急増し、教育ニーズが増えています。

また世界でインターナショナルスクールの校数は、10年で2倍に増えています。国内の学校法人が世界進出する話として、山梨学院グループを運営する学校法人C2C Global Education Japan(以下、C2C)の動向に注目が集まっています。

今回、編集部は、MSTの経営権を取得した経緯とともに古屋光司理事長と石田直理事にインタビューをお願いしました。

▽ C2Cグループは、すでに海外に展開している。国内のインターナショナルスクール運営は、国際的な経営の一環。

C2Cが経営する中国山東省にある山外富士無限幼稚園。

 

【速報!】学校法人C2C Global Education Japan がモンテッソーリスクールオブ東京を傘下に | By インターナショナルスクールタイムズ

https://istimes.net/articles/1473

弊誌の取材に対し、山梨学院グループを運営する学校法人C2C Global Education Japanは、東京都港区にあるモンテッソーリスクールオブ東京の経営権を取得したことを明らかにしました。

都内の幼小中のインターナショナルスクールの経営を開始

編集部 村田(以下、村田):今回、モンテッソーリ・スクール・オブ・トウキョウ(以下、MST)をC2Cが譲渡を受けた経緯を教えてください。

古屋理事長:MSTの前経営者の方も今の日本の教育に対する問題意識を持っていました。以前より面識があり、教育業界に参入してインターナショナルスクールを経営したい、と聞いていました。

村田:今回の経営譲渡とC2Cの戦略について教えてください。

古屋理事長:C2Cの中核である山梨学院大学では2015年に国際リベラルアーツ学部(以下、iCLA)を開設、系列の高校、小学校、幼稚園でもIBワールドスクールの認定を取得し、国際教育に力を入れてきました。
今回の経営譲渡はC2Cの世界進出の戦略で重要でした。
また、今に至る国際化と世界進出の大きな転機になったのが、iCLAの創設に向けて動き始めたことです。
iCLAの創設の前も中国人留学生の受け入れを進めていましたが、他の大学も同じで、うちだけが特化した戦略ではありませんでした。

2012年に大学の生き残りに向けた再編計画をスタートさせ、その時に出会ったのが、iCLAの初代学部長になったマイケル・ラクトリン先生でした。

C2Cが運営する山梨県甲府市にキャンパスがある山梨学院大学。法学部、経営学部、健康栄養学部、国際リベラルアーツ学部、スポーツ科学部の5学部と大学院がある。

 

ラクトリン先生もiCLAのようなリベラルアーツの国際系学部に情熱を持ち、私としても、国際系学部は大学の生き残り戦略の1つの切り口になるかなと考え始めました。

そこで「英語で本格的な授業をやる学部で、学生の半分は留学生」といったコンセプトでiCLAの開設に向けて動き始めました。

学生の半分は留学生となると留学生を海外から募集しなければなりません。
全世界で生徒募集を考えなければならず、視野が当然グローバルになりました。教員の募集と採用もしかりです。

また、国内のインターナショナルスクールも学生募集の対象になることから、インターナショナルスクール業界を初めとした国際的な教育に力を入れている人たちとの繋がりが大きく広がりました。

▽ 転機となった国際リベラルアーツ学部(以下、iCLA)。

ラクトリン先生がアドバイザリーコミッティを立ち上げた時には、東京インターナショナルスクールの坪谷ニュウエル郁子先生を初めとしたいろんな方に入っていただきました。

当時、山梨学院高校でも特色ある教育をやりたいと考えており、文部科学省が推進する国際バカロレア認定校の200校計画があり、国際バカロレアの申請に繋がりました。

ただ国際バカロレアの認定校になろう、と言ってもノウハウがないので、坪谷先生から国際バカロレア教育の国内第一人者として知られる大迫弘和先生をアドバイザーとして紹介いただきました。

古屋理事長とともにお話をお聞きした世界展開の部門を担当する石田直理事。

 

世界進出とMST買収との関係

村田:C2Cさんはアメリカやベトナム、中国など海外にも進出しておられます。そうした世界進出と、今回のMSTの買収には関係はあるのでしょうか。

古屋理事長:全部、繋がっています。山梨学院大学の生き残りのために今後の計画を考えていたのが2012〜14年ぐらいです。

そこでiCLAを作りました。iCLAを20年、30年続け、学生の半分は留学生になり山梨学院大学の国際化ができてもそれだけがゴールではないと思っています。

経営者として国際教育の状況や海外市場を見ていく中で「海外に打って出て挑戦したい」っていう気持ちが湧いてきました。

各国それぞれの人口動態を踏まえて、これから中間所得層や高所得層が増え、大きく広がっていく教育市場で勝負してみたいという感覚です。

▽ C2Cが経営する中国の幼稚園。世界展開は、すでに始まっている。

C2Cが経営する中国山東省にある山外富士無限幼稚園は、日本式と現地のニーズを結びつけて人気に。

 

古屋理事長:今のC2Cグループの経営体力からすると、2020年代はMSTやプリスクールの経営に特化し、10年ほどでグループの経営体力がついてきたところで、初等教育、中等教育に展開していくことをイメージしています。

村田:なぜ世界進出を進め、インターナショナルスクールを経営していくのでしょうか。

古屋理事長:私たちC2Cが考える教育理念を体現した学校同士で交流をする仕組みを考えているからです。

C2Cという同じ学校グループ間で生徒、教職員を含めた人材交流ができるようになる点にこそ大きな価値があると考えています。

世界展開のメリットのひとつに生徒、教職員を含めた人材交流を挙げる古屋理事長。

 

村田:山梨学院の系列校とMSTのあいだでも交流は考えていらっしゃいますか?

古屋理事長:MSTの先生たちと山梨学院の幼稚園、小学校の先生たちとの教育交流を考えています。
今、山梨学院が取り組んでいる教育とモンテッソーリには類似点も多くあり、先生方の教育交流で新たな発見や刺激もあると思っています。

生徒同士の点では、山梨学院側は英語教育に力を入れており両校の生徒たちの交流も進めたいと思っていますが、MSTの教職員、生徒たちの声も聞いていきたいと思います。

なぜ世界進出を進め、インターナショナルスクールを経営していくのか

村田:MSTはモンテッソーリで幼小中まである珍しいタイプの学校です。C2Cとしてモンテッソーリの学校展開を教えてください。

古屋理事長:モンテッソーリの良さからMSTの譲渡を受けましたが、今後、モンテッソーリ教育を広めるためにMSTの分校を次々に開校するという考えはありません。

今回、もしMSTがモンテッソーリじゃなくて、国際バカロレアのスクールだったとしても譲渡を受けていました。

▽ 幼小中までの教育課程を持つMSTは、インターナショナルスクールとしてモンテッソーリ教育で学べる。

 

古屋理事長:MSTの運営からモンテッソーリの教育法を勉強すると同時にC2Cがこれから世界でインターナショナルスクールを展開していく上で、多様なカリキュラム、教育手法のノウハウを持っておきたい。

C2Cは、一条校のノウハウは持っています。幼稚園と小学校と高校は国際バカロレア認定校です。
その経験から、どのような理念で教育手法を実践しているのかを理解してきました。

海外の国々でどのような教育が保護者から求められているのか。その国の時代背景から、今はこのような教育手法が選ばれると仮説を立て、実際のニーズとベストマッチする「教育手法」を展開していけるようにしていきたい。

世界の多様な、多分化の文化背景と最先端のニーズに対応できる能力です。
そのためにはいろいろな教育手法をグループの中に持っておきたい。モンテッソーリもその1つです。

世界の多様な、多分化の文化背景と最先端のニーズに対応できる能力が必要と語る古屋理事長。

 

今後のインターナショナルスクール展開について

今後、我々独自の東京でのインターナショナルスクール設立も可能性として持っています。
その場合にターゲットをどこに置くか。

我々がイメージしていたのは、基本的には普通のサラリーマン世帯で「年に200万円ぐらいだったら払える」家庭です。

お子さんの進学先に海外の大学ありきではなく、日本の企業に就職して、日本に基盤を持って生きていくことを前提にする家庭をターゲットに検討しています。

プリスクールに入れたけれど、小学校に上がるタイミングで英語で学び続けるために「どこの学校に行こう?」と考えたときに困っている方がかなり多いのはわかっていました。

そういう家庭やお子さんに新たな学校を提供したいと考えていますが、都内は不動産価格が高く事業採算性を考えると覚悟が必要です。
現在も検討を続しています。

▽ C2Cグループは、都内に認可園、企業主導型、認可外保育施設をはじめとするMilky Way International Schoolも運営している。

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村田:C2Cは、今後、国内でさらにインターナショナルスクールを増やしていくのでしょうか?

古屋理事長:インターナショナルスクールを次々に増やしていく事業戦略はあまり考えていません。一方で今回、MSTの話が出るタイミングで自分たちで東京にインターナショナルスクールを作ろうっていう動きも、実は検討していました。

私たちの世界進出は、例えば中国やインドなどで展開するにしてもニーズのある国・地域に展開します。

中国、インド、ベトナム、アメリカと世界展開するC2Cグループ。

 

古屋理事長:インターナショナルスクールであれば、国際教育への感度が高い富裕層がいる大都市やこれから発展する都市です。

世界進出の中でC2Cの学校経営経験が問われるわけですが、その時に「日本の山梨と東京でも学校経営をしている」という事実が重要になってきます。

MST以外にも山梨学院小学校は、一条校として学習指導要領に則り、同時に国際バカロレアの学びをしています。

このようなハイブリッドの仕組みを導入したインターナショナルスクールを東京で作る計画を進めていましたが、MSTの話がきたので、まず東京のインターナショナルスクールの活動拠点として定めました。

世界進出のその先に見つめているもの

村田:今回のMST買収がC2Cの大きな国際戦略の一環であることは分かりました。その先にC2Cの世界進出で考えている目線を教えてください。

古屋理事長:我々C2Cは、学習指導要領という日本のナショナルカリキュラムを知っている。国際バカロレアも少しずつ経験を積んできました。今度はモンテッソーリも理解していきます。

今、世界のインターナショナルカリキュラムは、基本的に全部、イギリスが元になっています。
国際バカロレアはオックスフォード大学と繋がりが深く、ケンブリッジ国際カリキュラムは、ケンブリッジ大学です。

それ以外はアメリカンスクールならアメリカの何々州のカリキュラム、カナディアンスクールだったら、カナダの何々州のカリキュラムです。

これから海外進出を通して、中国やインドのナショナルカリキュラムもよく理解した上で、10年、20年、30年と世界各国で教育事業を経営していくことで 自分たちで教育プラットフォームを作れるようになりたい。

30年ぐらい先を見据えた時に、アジアにルーツを持つ世界的な教育のプラットフォームがあってもいい。

社会科見学でスーパーマーケットに出かけるベトナムのダナンにあるFuji Infinity Kindergartenの園児たち。

 

古屋理事長:今は、「欧米の先進国の優れた教育を自分たちも受けよう」というニーズから、そういう「商品」がアジアで好まれているわけです。

しかしこれからアジアがどんどん力をつけていく中で、アジアにルーツを持つ教育カリキュラムやプラットフォームが、世界中の国々、例えばアフリカとか中東とか南米といった国々で評価される時代が来るかもしれない。

そこを目指すには、少なくとも世界何十か国で何百校っていう展開をしないと、それだけの発言力や影響力が持てるようにならないと思います。

私が生きている間にはできないかも知れませんが、それを次の代につないでいくための基盤作りをしたいと思っています。

インタビューさせていただきました古屋理事長、石田理事、ありがとうございました。

 

村田:世界の人口の半分以上を占めるアジアの学びの良さが反映されたアジア発の教育プラットフォームを作るために30年先を見据えた世界進出。続きがさらに楽しみです。

本日は、ありがとうございました。

写真:C2Cグループ
構成:村井裕美


この記事の記者

インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。

プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。

国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。