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言葉が広げる子供達の可能性

言葉が広げる子供達の可能性

何気ない大人の一言が、子どもの可能性を閉ざす言葉にも、未来を開く言葉にもなります。何気なく使っている大人の声かけは、学びへの姿勢や自信を静かに形づくっています。本コラムでは、家庭と学校の言葉が重なったときに生まれる、子どもの成長の力を紐解きます。


言葉が広げる子供達の可能性

「はあ……僕、数学が苦手なんだよね。」

教室で、子どもがぽつりと、まるで自分自身に言い聞かせるようにつぶやくこの言葉を、私は教育の現場において、これまで何度も耳にしてきましたから、そこに驚きはありません。ただ、その一言が持つ“力”を知っているからこそ、私はそのつぶやきに注意深く耳を傾けるようにしています。

なぜか?、その短い言葉の中には、子どもが自分の能力をどう捉えているのか、成功をどう定義しているのか、努力について何を信じてきたのか、という物語が詰まっているからです。

子どものセルフトーク(内なる語り)は、突然生まれるものではありません。身近な大人の言葉、親や教師からの励まし、アドバイス、うまくいかなかったときに大人が漏らす小さなため息にさえ、そうした積み重ねによって形づくられます。大人の言葉はやがて、子ども自身が自分に向けて使う言葉になります。

グローバルエデュケーションの現場では、この構造はさらに複雑になります。子どもたちは日常的に、複数の言語、文化、期待の間を行き来していますから、家庭で聞くメッセージと、学校で受け取るメッセージが、まったく異なる響きを持つことも少なくありません。子どもは「どの声を信じればよいのか」分からなくなってしまう事は往々にして起こり得ます。

一方でこれらの要素がうまく噛み合い、家庭と学校が「成長・好奇心・レジリエンス」を共通言語として共有したとき、何が起こるでしょうか。そのとき私たちは、内発的な動機と学ぶ喜びに支えられた、自信溢れる生徒たちの姿を目にすることになります。

言語とマインドセットの科学

心理学者キャロル・ドゥエックの「成長マインドセット理論」は、知能は固定されたものではなく、努力・振り返り・練習を通じて成長するものであることを示しています。自分の能力は伸ばせると信じる子どもは、困難を脅威ではなく、学びの機会として受け止めます。

しかし、この信念は自然に育つものではありません。意図的に選ばれた言葉によって育まれます。

「頭がいいね」と「よく頑張ったね」

一見すると小さな違いに見えるこの二つの言葉。しかしながら、研究は一貫して、努力に焦点を当てた称賛の方が、動機づけと回復力を高めることを明確に示しています。「賢い」と評価された子どもは、失敗が自己否定につながることを恐れるようになる、一方で工夫や粘り強さを評価された子どもは、成功を「才能」ではなく「行動」と結びつけるようになります。

国際教育の現場においては、ここに文化的要素も加わります。謙虚さや調和を重んじる文化もあれば、自信表現や自己主張を奨励する文化もあります。ここで重要なのは文化の枠を超えた言葉の一貫性です。

具体的にどうすればよいのか?

目指すべきは、家庭の自然なコミュニケーションスタイルを変えることではありません。
 

「努力には意味がある」
「失敗は価値がある」
「学びは共に歩む旅である」

この共通のメッセージが、子どもたちの内側に、しなやかで強い学びの土台を築いていくのです。

言葉が食い違うとき

イメージしてみて下さい。

子供がとある事柄について学校で先生から「失敗は成功のもとだよ!」と励まされた直後に親にそのお話をしたら「ミスをしないように、もっと気をつけなさい!」と注意されたらどうでしょう?

どちらも愛情から発せられた言葉です。しかし、子どもに届くメッセージははまったく異なるものになります。学びに活かすべきか、失敗を避けるべきか、――この矛盾は発展途上の子供たちの心のなかに混乱を生みます。

かつて、私のクラスには完璧主義で、少しのミスにも涙を流してしまう生徒がいました。その子の保護者面談で、お母様は「急がず、最初から正しくやりなさい」と声をかけていたと話してくれました。正確さを尊ぶ文化的価値観から生まれた言葉です。しかしその生徒には、それが「間違えてはいけない」という恐れに変換されていることがわかりました。

そこで我々は、家庭と学校で、正確さよりも努力や好奇心を称える言葉に揃えた(一貫性を持たせた)ところ、彼女の自信は驚くほど育っていきました。

子どもの気持ちは、一貫性によって安定します。身近な大人から発せられる一貫した言葉は、子どもに安心して挑戦し、失敗から立ち直る推進力を与えます。逆にそれぞれの立場の大人(この場合は教師と親)がどんなに強い想いを込めてアドバイスをしてもそこに一貫性が無ければ子供たちにとっては逆効果ということになります。

共通の「励ましの言語」をつくる

ここで私の言う「一貫性」とは、学校と親が決まり文句を共有・運用することだけではありません。学びに対する信念を共有することです。もう少し深掘りしていきましょう。

1. キーフレーズを共有する

家庭と学校で使う短いフレーズを3〜5個決めましょう。

  • まだできないだけだよ

  • 一緒に考えてみよう

  • 次はどんな方法を試せそう?

  • 本当によく頑張ったね

  • ここまでの成長を誇りに思っていいよ

言葉を揃えるだけもで、努力と成長のメッセージが子どもの内側に定着します。

2. 振り返りを大人が示す

近くにいる我々自身が日頃の失敗から学んでいることを態度で示すことも重要です。

教師:「今日の授業は思った通りにいかなかったけど、次の授業に活かせそうだ!」
保護者:「今日は料理を焦がしたけど、お陰で次はもっとおいしくできるね!」

大人が自ら率先して不完全さを見せることは、いつも完璧でなくても良いという感覚を育み、子供たちの自己肯定感を育む一助になります。

3. 結果より努力に焦点を

点数や完璧さだけが評価されると、価値=成果になりがちです。成果に至るまでの過程、粘り強さや工夫を褒めてあげることで、勉強に対する内発的動機が育ちます。

4. トーンを揃える

子どもは、言葉の意味そのもの以上に、話し手のトーンを敏感に感じ取ります。心からの温かさを伴った励ましは、信頼関係を育みます。たとえルールを伝えたり、改善点を指摘したりする場面であっても、落ち着きと思いやりのある語り口が子どもの学びへの前向きな心が養われます。

5.「もう一度やってみよう」と「まだできないだけ」

言葉には大きな力があります。大切なのは、何を言うかだけでなく、どのように伝えるかです。 言い回しのわずかな違いでさえ、子どもが「学び」をどのように受け止めるかは大きく変わります。「もっと頑張りなさい」は批判のように響くことがありますが、「もう一度やってみよう」は努力を認め、粘り強く取り組む姿勢へと導きます。なかでも 「まだ(yet)」 という一語には、特別な力があります。それは、失敗を「終わり」ではなく、「これからの可能性」へと転換させる言葉なのです。

私は保護者の方々に、シンプルな「言葉の棚卸し(ランゲージ・オーディット)」をしてみることをよく勧めています。1週間ほど、学びや失敗に関して、日常的にどのような言葉を使っているかに意識を向けてみてください。その言葉は、子どもにどんなメッセージを伝えているでしょうか。完璧さを求めるものか、それとも成長の過程を大切にするものか。自分の言葉の傾向に気づき始めたとき、変化は無理なく、自然に生まれてきます。

家庭と学校が響き合うとき

数年前のことです。私のクラスに、明るく元気な小学2年生の男の子がいました。少しでも難しいことに直面すると、彼はよく腕を組んで「できない」と口にしていました。そこで私たちは、ある一つの言葉を付け加える練習をしました。「まだ(yet)」です。やがて彼は、「まだ出来ない___、明日またやってみるよ!」と言うようになりました。

数週間後、彼のお母さまがこんな話をしてくださいました。家でその子が年下のきょうだいに向かって、「まだできないだけだよ。続けてやってみて」と声をかけていたのを、偶然耳にしたそうです。学校で使っていた同じ言葉が、家庭でも自然に使われていることに驚き、思わず笑顔になったといいます。そのとき私は、「言葉の一貫性」が持つ力の大きさを実感しました。

家庭と学校で同じメッセージが響き合うと、子どもは言葉をただ繰り返すだけでなく、物事の捉え方そのものを自分の中に取り込んでいきます。努力は「すること」ではなく、「自分らしさの一部」になっていくのです。そして、どの言語を使っていても、周囲の大人が自分の成長を信じてくれているという安心感が、子どもの心を支えます。

この作業は、文化の違いを消すものではありません。むしろ、それぞれを尊重し、活かすものです。一貫した励ましの言語は言葉や文化の違いを超えて、成長マインドセットの理念と美しく重なります。この二つが結びつくことで、子どもは粘り強さと自分へのやさしさのバランスを保ちながら、心と好奇心の両方を使って前に進んでいけるのです。

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この記事の記者

関根ルーシー, 関根俊輔は、東京を拠点に活動する国際教育の専門家。グローバルな学びを通じて、子どもたちとその家族が「目的・情熱・可能性」を見出すことを支援することに、深い使命感を持って取り組んでいる。

関根ルーシーは、プリキンダーガーテンから小学6年生までを対象に、20年以上の指導経験を有する教育者。アメリカ・フロリダ州出身。家族・青少年・地域科学の学士号および初等教育の修士号を取得。2005年に来日後、KAインターナショナルスクール東京にて小学校部門の責任者を務め、PreKから小学4年生までの児童および教員を支援してきた。自信と好奇心を備えた学習者の育成、ならびに子ども一人ひとりが尊重され、安心して成長できるインクルーシブな学習環境の構築に情熱を注いでいる。

関根俊輔は、留学およびボーディングスクール進学支援分野において豊富な実績を持つコンサルタント。2011年より本分野に携わり、これまでに1,000名を超える学生を海外進学・留学へと導いてきた。世界各国の学校、大学、大使館、政府機関との強固なパートナーシップを構築。株式会社KITE代表取締役として、E-Concierge留学ブランドを運営し、中学・高校ボーディングスクール留学を専門とする教育コンサルタントとして多くの生徒たちと向き合い成功へ導くコーチとして活躍。QEAC認定カウンセラー。マンチェスター大学MBA修了。対話を重視し、生徒一人ひとりの可能性を引き出す個別最適化された支援に定評がある。

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