英語入試で問われる力は、資格試験のスコアだけでは測れない
前回の記事では、帰国生入試や英語入試・グローバル入試と呼ばれる一般入試における英語導入型の試験の広がりとともに、「英語を強みにできる中学受験」がどのように多様化してきているのか、その全体像をお伝えしました。かつては帰国生やインターナショナルスクール生が中心だった英語入試も、現在では国内小学校に通いながら英語を学んできた子どもたちにも、選択肢として広がりを見せています。
一方で、一口に「英語を活かした受験」と言っても、学校によって求められる英語力の高さや試験内容は一様ではありません。特に、帰国生の受け入れを積極的に行っている学校の多くでは、単に英語で意思疎通ができるかどうかのみならず、英語圏の現地校で学ぶ小学生と同程度の学習力を前提とした入試内容が組み立てられている学校が多く見られます。
その中でも特に高い水準が求められる例として挙げられるのが、渋谷教育学園渋谷、渋谷教育学園幕張、広尾学園、広尾学園小石川といった人気・難関校です。これらの学校では、現地校で学ぶ同学齢の子どもと同程度の読み書きができるだけでは十分とは言えず、アカデミックな文章を読み込み内容を正確に捉える力や、論理的に書いて説明する力、面接で思考の深さと一貫性を示す力といった、より高度な力が総合的に求められます。
たとえば、広尾学園や広尾学園小石川では、TOEFL iBT 90点以上で英語筆記試験の優遇措置が設けられています(※2026年度入試の時点)。一方、渋谷教育学園渋谷や渋谷教育学園幕張では、たとえ英検1級を取得していたとしても、不合格になることは珍しくありません。これは、資格試験で測られる英語力と入試で実際に問われる力とが必ずしも一致していないためです。試験では、物語文だけでなく古典文学や詩、自然科学・テクノロジー・人文社会などを題材としたノンフィクションの文章が出題されるケースが多く見られます。これらの文章は情報量や抽象度が高く、内容を読み落とさず捉えるだけでなく、論点や構造を整理しながら理解する力が求められます。さらに、パラグラフ構成を意識したエッセイライティングや、自身の経験や考えを理由や背景と結びつけて説明する英語面接など、アウトプットの場面でも高い論理性や明瞭さが求められる傾向にあります。
これらはいずれも、「英語ができるかどうか」ではなく、英語を使って学び、考え、整理し、表現できるかが問われていると言えます。そして、こうした力は生活の中で自然に培った英語力だけで補えるものではなく、短期間の対策だけで身につくものでもありません。だからこそ、英語を活かした中学受験を見据えるなら、学年ごとの役割に沿って段階的に準備を進めることが大切です。その積み重ねが、受験で問われる力の土台となり、その先の学びにもつながっていきます。ここでは、中学年・高学年の順に整理していきます。
小学校中学年:英語で「内容を理解する」経験を積む
小学校中学年は、語彙力や理解力、論理的思考が大きく伸びる大切な時期です。この段階で英語にどのように触れてきたかによって、その後の伸び方に影響することがあります。この時期に意識したいのは、英語で「読む・聞く・考える・書いてみる」という経験を、楽しみながら少しずつ増やしていくことです。英語を学ぶこと自体が目的になるのではなく、英語を使って内容を理解し、考えるという感覚を育てていくことが重要になります。
特に、英語で書かれた文章を「内容を理解しながら読む」経験は、この先の学習の基盤になります。物語を楽しむことに加え、説明文や情報文を読み、文章全体は何について書かれているのか、その理由や根拠はどこにあるのか、といった点に少しずつ目を向けていくことで、表面的な読みからより深い理解へと移行していきます。家庭でも、読んだ内容を短く説明したり、「なぜそう書いてあったのか」を考えたりするだけで、読む力は着実に育っていきます。
また、中学年のうちから、理由・対比・例示・主張・譲歩といった、学習の場面で使われる語彙(たとえば because / therefore / however / for example / in my opinion / overall など)に触れていくことも大切です。説明文の読解や英語での記述、面接などでも頻繁に使われます。文法やライティングは、この段階では正確さや完成度を最初から目標にするというより、まずは英語で「書いてみる」経験を増やし、あとから少しずつ整えていくことが大切です。書いた文を読み返し、主語と動詞が揃っているか、時制がぶれていないか、なぜそう思うのか、つまり、その考えに至った理由や背景を一文添えられるか。そうした小さな見直しを重ねることで、「伝わる形」が増えていきます。
小学校高学年:英語で「学ぶ」力を段階的に育てる
小学校高学年になると、中学年までの経験を土台に、英語を「学ぶために使う」場面を意識して増やしていくことが大切になります。特に5年生は、受験を意識し始める時期ではありますが、過去問演習や試験対策に早くから取り組むことが最優先ではありません。むしろ、英語で情報を理解し、自分の考えを整理して伝える力を、受験やその先の学びにつながる形に整えていくことが、この時期の大きなねらいです。
前述のような人気・難関校を視野に入れる場合であれば、5年生の終わりまでには、長めの説明文・論説文を段落ごとに捉え、要点をまとめられる力が一定の目安になります。文章を読む際には、流れを追うだけでなく、「主題は何か」「根拠はどこか」「対比や因果はどう組み立てられているか」といった点を意識して読むことが大切です。物語文についても、心情や語りの視点、象徴表現のニュアンスに目を向けられるようになると、読みの精度や解釈の幅が増していきます。ライティングにおいては、読んだ内容や自分の考えをそのまま書くのではなく、主張を示し、理由を述べ、必要に応じて具体例で支える形で整理して書けるようになると、6年生以降の記述対策につながりやすくなります。
6年生では、それまでに積み上げてきた力を土台に、入試を見据えた実践的な対策へと段階的に移行していきます。この時期に重要なのは、いきなり志望校の過去問に取り組むことではなく、まずは英語筆記試験で出題されやすい問題形式や設問の意図、基本的な解き方の考え方を理解することです。長文読解、内容一致、要約、記述式問題など、さまざまな形式にどのように向き合えばよいのかを整理し、限られた時間の中で情報を処理する力を養っていきます。
問題演習を通して、自分の時間配分やミスの傾向を把握し、次にどう改善するかを考えることも欠かせません。こうした基礎的なテストスキルが身についてきた段階で、徐々に志望校別の対策へと進んでいきます。学校ごとの出題傾向を踏まえ、「どの力が重視されているのか」「どこで点を取りにいくのか」を意識しながら対策を進めることで、学習の精度は高まっていきます。
段階的な準備が、受験突破とその先の学びにつながる
中学年から高学年へと続くこの流れは、日々の学びの中で時間をかけて育っていく力です。 学年ごとの役割を理解し、段階に応じた準備を積み重ねていくことで、無理なく、そして現実的に受験に向き合う力が育っていきます。英語受験において重要なのは、背景や経験の有無ではなく、求められる力を見据えて、適切なタイミングで準備を進めていけるかどうかなのです。


上野和香江は帰国子女アカデミーの受験指導責任者として、帰国子女やバイリンガルのお子様を持つ保護者の方々に教育および学習計画に関するアドバイスを20年以上提供してきました。帰国子女教育の専門家として、国内外での成功につながる教育の道筋を、多くのご家庭に示してきました。