サレジアン国際学園小学校 大橋清貫学園長インタビュー
2026年4月、星美学園小学校は、校名を「サレジアン国際学園小学校」と変更し「インターナショナルクラス」を開設します。
編集部では、大橋清貫学園長にその背景と狙いについてインタビューをお願いしました。

三田国際学園、サレジアン国際学園中学校高等学校、サレジアン国際学園世田谷中学校高等学校 3つの学園長を兼務する大橋清貫学園長。激務を縫ってインタビューにお答えいただきました。
インターナショナルクラスの背景と期待
村田:本日はよろしくお願いいたします。
大橋先生は、これまで三田国際学園、広尾学園、サレジアン国際学園中学校高等学校、サレジアン国際学園世田谷中学校高等学校と4つの中学校・高等学校の改革をされてきました。
女子校の共学化や国際教育の導入など、学校改革のトップランナーです。
今回、サレジアン国際学園小学校への校名変更とインターナショナルクラスの開設を公表されました。
プリスクールが全国に800園以上と増える中で、SNSでも大きな反響がありました。
小中高一貫で目指す人材像や理想像について教えていただけますか。

大橋学園長:これまでサレジアン国際学園中学校高等学校、サレジアン国際学園世田谷中学校高等学校を担当してきましたが、どちらの学校も入学が難しくなっています。中学受験を相当頑張らないと届かないレベルです。両校ともいわゆる難関校との併願をする受験生が多いと思います。
中学受験を経て入学してくる児童たちと接してきて感じるのは、受験をすごく頑張ったんだな、ということです。と同時に、知識偏重の傾向を感じます。
中学受験の準備を相当してきて、その応用力はあるのですが、知識中心の、いわゆる中学受験向けの応用問題を中心に解いてきた児童が多いという印象を受けます。
例えば、「白紙の紙に何かを書いてください」「何かについてあなたの考えを400字以内で述べなさい」という問題に対して、途端にペンが止まってしまう児童が少なくありません。何か正解があると思っているのか、教えてもらっていないことに対する反応が弱いのです。
要するに、トレーニングされていないこと、過去問とか問題集にないようなことに対しては、感受性が低いというか、苦手意識があるようです。
小学校の6年間、中学受験のために小学校3年生の終わりごろから塾に通い始め、丸々3年間、中学受験に出る問題の知識や応用問題、難問も含めて、そういうところのトレーニングをしてくるわけです。
それに対しての条件反射力は良い。知識でも応用でもない、初めて出会うようなことに対しては、やったことがない、あとは習ってない、大体それですね。
日本社会の縮図かなと思います。習ってないとできない、誰かがやった後でないとできない。
慣例や成功者の追随は得意ですよね。パターン学習は日本の得意技です。
しかし、そうも言っていられない時代です。前例のない社会に入ってしまったので、その中で仕事をしていくためには、これまでの成功モデルは通用しません。
そのような時代で、どんな能力を持っていれば活躍できるのかを考えると、これまでの常識を変えていく時です。
小学校の6年間で学ぶべきことは知識やその応用以外にも大事なことがあります。それをやろうと考えました。

持論ですが、小学校低学年の時の学力差はほとんどないと思います。
九九を覚えられない子はいませんし、漢字も練習すればみんなできます。理科の実験的なことは好きな子が多いですし、社会の知識をとても詳しく知っている子もいます。
そのような子どもたちが、どこかの段階で差がついてしまうことを経験的に知っています。
それは、具体的な学びから抽象的な学びに入っていく段階で差がついてしまうのです。
小学校高学年になるとその差はかなり顕著になります。
中学受験の段階では、知識を詰め込み、その知識を使えるような応用問題を解くことが求められます。学校もそのような問題を出す傾向があるので、受験生も当然それに対応します。
そのような状況下で、子供たちは学習していくため、どうしても、習う、覚える、再現する、正確に早く、といった能力が重視されます。
知識偏重からの脱却:思考力と表現力を重視

大橋学園長:子どもたちの長い将来を見たときに、中学受験で良い結果を出すためには有効かもしれませんが、その先を見るとそれだけでは不十分なのではないか、もっとやっておくべきことがあったのではないか、と感じます。
しかし、中学受験の前にそのようなことに多くの時間を割くのはなかなか勇気がいることです。
本校のように付属小学校がある学校は、知識や応用も大事にしつつ、より深く考える学びを6年間やり続けることによって、子どもたちの成長をサポートできると考えています。
ピアジェの発達段階では、具体的操作期の学習は普通の子はみんなできます。そこで差はほとんどつきません。しかし、抽象的な形式的操作期、概念的なところに入ると、理解が早い子と遅れる子が出てきます。
編集部注記:ピアジェの発達段階理論は、子どもの認知機能の発達を4つの段階、感覚運動期(0歳〜2歳)前操作期(2歳〜7歳)具体的操作期(7歳〜11歳)形式的操作期(11歳〜)に分けています。

理解が遅れた子は、勉強ができない子というレッテルを貼られてしまうことがあります。
それは間違っていて、抽象的なもの、概念的なもの、それを数値化したものを理解するためには、そもそも概念が分かっていないと数式も理解できない、という状態に陥ってしまうのです。高学年になると差がつくのはそのためだと考えています。
抽象的なもの、概念的なもの、もう少し進むと哲学的なものに対して、具体的な経験がないために、活字や人の言葉を通してしか学べないことに対しては、どうしても理解のスピードが追いつかないのです。
それは無理に追いつかなくても良いと考えています。時間をかけてじっくり考えていけば、理解できるようになり、使えるようになるはずです。
しかし、それをやらない小学校時代は少し残念だなと思います。
村田: そこで抜け落ちてしまうのですね。
大橋学園長:グローバル時代ですから、小学校から英語環境の中でその教育を実践することをスタート地点にしようと考えています。
サレジアン国際学園中学校高等学校、サレジアン国際学園世田谷中学校高等学校も同様ですが、思考力をつける授業に相当なウエイトを置いています。
PBL(Project Based Learning)です。だんだん追いついてくるのです。
生徒たちはすぐに答えを知りたがりますが、答えのない問題が出ると、何が正解か分からなくて困ってしまいます。
それを学びの中心にすることによって、「答えは自分の中にある」「自分の考えを作る」ということを学んでいきます。
そして、それを友達や周りにプレゼンして説得していくことが、これからどれだけ大切かを理解させます。
そのために必要な学びを、サレジアン国際学園中学校高等学校、サレジアン国際学園世田谷中学校高等学校では実践しています。小学校でももっと早くから始めようということで、英語環境の中でインターナショナルクラスを始めます。
多様性と国際感覚を育む

村田:なぜ、インターナショナルな小学校が必要なのでしょうか。
大橋学園長:日本の教育の良いところは、統一性や均一性が高いことだと思います。しかし、実際の社会や世界はダイバーシティであり、ボーダレスです。
多様性があるのは当たり前です。同じ考えの子ばかりの世界はあり得ません。
日本の学校教育は、みんなが同じようにできることを求めがちです。
人と違うとダメなんじゃないか、と思ってしまう子もいます。
一方、外国籍の子は、自分の主張をきちんとできる子が多くいます。
子供の頃からそのような環境にいるので、自分の意見を言うことに抵抗がないのです。
日本人の子どもたちは、あるところまでは良い子だと褒められます。
サレジアン国際学園 中学校高等学校には、インターナショナルコースと本科コースがあります。
インターナショナルコースは、グローバル時代に活躍できる資質や能力を身につけることを目指しています。
言語力はもちろんのこと、多様性を受け入れ、常に自分の考えを持ち、判断できるような人材を育てたいと考えています。
ディプロマ・ポリシーにも明記していますが、生徒には高等教育に進んで、自分のキャリアを自分で作ってほしいと考えています。
入学当初は自分の考えを持てなかった生徒が、プレゼン大会に出て活躍できるレベルまで成長するのです。しかも、英語で世界標準レベルのプレゼンができるようになるのです。
そのようなインターナショナルコースの考え方を、小学校からもっと早く始めたらどんなに素晴らしいだろうか、と考えました。
なぜ小学校にインターナショナルクラスがないのだろうか、と。
日本の名門小学校は支持されていますが、保護者の方全員は本当にそれを望んでいるのでしょうか?
保護者の方々は社会の第一線でご活躍されており、もう名前だけで選ぶ時代ではない、と思いつつも、名門小学校を受験する。
そういう学校に行く親御さんは、保険のように大学附属の名門校に入れている方が多いのではないでしょうか。
学校に行きたいというよりも、そこの大学に行きたい、という気持ちが強いのだと思います。
6・3・3の12年間にどれだけの学びの機会があるのか、もったいないなと思います。
名門大学に行くのは悪いことではありませんが、その12年間をサレジアンのような学校で過ごせば、自分の進路を輝かしいものにできると思います。
英語学習について

インターナショナルクラス 設置準備室久保敦先生(写真左) と大橋学園長(写真右)。
村田:様々な英語学習法がある中で、GrapeSEEDを導入された理由を教えてください。
久保先生:GrapeSEEDは、語学のベースになるファンデーションがよくできています。特に最初は幼稚園の教材だったのですが、今は小学校向けの教材もあります。
語学は楽しく学ぶことが大切で、ゲームや音楽、きれいな発音をベースにしています。
幼稚園のインターナショナルスクールでもGrapeSEEDを取り入れているところが多いので、小学校でも導入することにしました。
ただし、それだけでは思考力は育たないので、その上にCollaborative Classroomというアカデミックな科目の教材を導入します。
単発な科目ではなく、科目が全てオーバーラップするようなスキームになっています。社会、理科、英語、数学的な方法を組み合わせて、2段階層にしています。
GrapeSEEDで基本的な英語を学びながら英語を学ぶCollaborative Classroomの教材で思考力をつけるという形を作りました。
村田:入学時に英語力に違いがあると思いますが、どのように対応していくのでしょうか。
久保先生:小学校1年生では大きな差はありませんが、高学年になると差が出てきます。
小学校1年生は、英語がはじめての子もできる子と過ごすことで、あっという間に英語を吸収していくような形を考えています。
村田:小中高との連携について教えてください。

大橋学園長:自分で選択できるだけの考えを持ち、キャリアプランを自分で作っていくことが大切です。
先生に言われたから、友達が行くから、偏差値が高いから、といった理由ではなく、自分で進路を選んでほしい。
結果として、海外大学を目指す生徒が増え、それが本校の大きな特徴になると思います。
小学校から高校まで12年間、そのような教育を受けることで、自分の意見を持つことが当たり前になると考えています。
以前、生徒に「指されるとドキドキする?」と聞いたところ、「プレゼンができる!」と答えた生徒がいました。
プレゼン大会があるのですが、多くの生徒が手を挙げます。
それはプレゼン力があるだけでなく、自分が持った考え方を多くの人に知ってもらいたいという気持ちが強いからだと思います。
サレジアンには小学校部門ができるで、小学校からそのような教育をすればすごいことになる、と考えています。
様々な試験でハイスコアを出すことで、最終的には海外大学に進学する生徒が増えると考えています。
世界的なカリキュラムの導入
村田:AP(Advanced Placement)の導入も計画されているのですね。
大橋学園長:APも実施予定です。
中高ではオーストラリアのWACE(Western Australian Certificate of Education)のカリキュラムを導入しています。
日本とオーストラリアの両方の高校卒業資格の二つを修得することができます。また、日本の高校の科目にはない教科も学べるというメリットがあります。
海外高校卒業資格を持つことで、国内大学を受験する際に帰国子女として扱われる場合もあります。
海外大学に進学する際にも有利になります。
APは、大学の教養科目の先取りという性格があるので、生徒のためになると思います。高等教育の基礎教養的な科目を先取りして学べるというメリットがあります。
本校はどの教科においても、中学の学習指導要領、高校の学習指導要領に関わらず、学部のレベルまでどんどんやっていくという方針なので、APとの親和性が高いのです。
日本の高校でありながら、海外の高校に近い教育を行っていると言えるでしょう。

村田:APとの親和性が高いのですね。
大橋学園長:三田国際学園では高校の間に大学の基礎教養科目をかなり学んでしまうので、卒業生が大学に行って授業がつまらないと言うことがあるようです。
大学に行くと手応えがないと言っていました。
しかし、高校卒業時にAPを取得していれば、その科目は海外で単位として認められ、同じ内容を2度やらなくて済むというメリットもあります。
APのコースを設けるのではなく、APの試験を受けてもらうことで単位が認定されるという形にしたいと考えています。
普段の授業を受けていればAPに合格できる、というレベルを目指しています。
村田:AP対策をする必要はないのですね。普段の勉強だけで試験に合格できる、と。
久保先生:そうです。そのような環境を持つ学校は他にないと思います。
大橋学園長:APに試験対策をしなくても受かるためには、教員の質を一定水準まで引き上げなければ実現できません。
自分の授業は良い授業だと思い込んでいる先生もいますが、それは子どもたちの思考を深くする授業ではなく、先生の頭を移植する作業なのではないか、と指摘しています。
子どもたちに思考力がついているか、どのように担保するのか、という問いに対して明確な答えが出せない先生もいます。
中高の学校で、これほど研修を繰り返す学校は他にないと思います。
村田:教え方を含めてトレーニングされているのですね。
大橋学園長:PBLのトレーニングは相当やってきました。数学はオーストラリアのWACE教材を使う予定ですが、中学1年生から高校1年生までは、シンガポールの数学(シンガポール・マス)を導入します。
村田:PISAでトップ学力のシンガポール・マスですね。小学校では英語の比率はどのくらいになるのでしょうか。社会、道徳、国語が日本語で、他は英語というイメージでしょうか。
大橋学園長:最終的には検討中ですが、国語以外はほぼ英語でやりたいと考えています。
音楽、図画工作、体育も英語を考えています。
インターナショナルスクールとほとんど同じになりますね。
小中高一貫教育の強み:進路選択とキャリアプラン
村田:アフタースクールはどうなりますか。
大橋学園長:一応日本語です。英語のプログラムも入れてほしいとお願いしています。
アフタースクールでは、日本の文化やゲームなどを体験できます。
英語ばかりにならないようにしたいと考えています。
村田:学校にいる間は英語環境なので、言語のバランスを取るのですね。
久保先生:英語が得意な子もいますが、放課後は日本語に触れる機会も作りたいと考えています。
英語をもっと勉強したい子には、英語のプログラムも用意したいと思っています。
志願者について

村田:志願者の層についてですが、プリスクールからの入園が多いのでしょうか。
大橋学園長:英語のベースが全くないという方ももちろん歓迎しますが、少数派になると思います。
基本は国内のプリスクールに通っている子、帰国子女、ご両親のどちらかが外国籍の方、家庭内で英語を使うご家庭が多いと思います。
村田:多様な生徒さんが希望されそうですね。本日はお忙しいところインタビューをありがとうございました。
お問合せ
星美学園小学校(26年4月より サレジアン国際学園 小学校に校名を変更予定)
インターナショナルクラスの開設は、2026年の新小学校一年生から
HP:https://www.el.seibi.ac.jp/
〒115-8524 東京都北区赤羽台4-2-14
小学校インターナショナルクラス設置準備室 直通 080-2343-1621
説明会
【説明会】
3月8日AM 第一回説明会
5月31日AM 第二回説明会・授業体験会
9月13日AM 第三回説明会・入試体験会
【入試】
10月25日 第一回帰国生入試
11月1日 一般入試A
11月21日 一般入試B
2026年
1月7日 第二回帰国生入試
インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。
プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。
国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。