KAISにおける「ヴィジブル・ラーニング」
KAISで実践される、研究に基づいた指導とは
多くのご家庭にとって、学校選びは期待と同時に不安も伴うものです。
「子どもが安心して過ごせるか」「励まされ、適切に挑戦し、刺激を受けられる環境か」。学級規模、プログラム内容、教員、施設など、さまざまな点を比較検討されることでしょう。しかし、それらすべての実務的な条件の根底にあるのは、次の非常に本質的な問いではないでしょうか。「この学校で、わが子は本当に学んでいるのか。そして、将来の成功につながる力を身につけているのか?」
KAインターナショナルスクール(KAIS)では、この問いこそを教育理念の中心としています。その答えを追求する中で、「ヴィジブル・ラーニング」の研究に基づく教育アプローチを採用しました。ヴィジブル・ラーニングは、「学校教育において、何が生徒の学力向上に本当に効果があるのか」を示す、世界最大規模のエビデンスに基づいた理論です。このアプローチにより、KAISでは意図と明確さ、そして学習効果を重視した授業設計が可能となりました。すべての子どもが支えられていると感じるだけでなく、実感を伴う、測定可能な成長を経験できるのです。
KAISは、日本で初めてヴィジブル・ラーニング認定校として、コーウィン社より公式な認証を取得しました。これはヴィジブル・ラーニングの原則を深く理解し、測定可能な形で実践している学校にのみ与えられるものです。では、この認定は保護者の皆さま、そしてお子さまの日々の学びにとって、具体的にどのような意味を持つのでしょうか。本記事では、ヴィジブル・ラーニングの中核となる考え方を紹介し、このアプローチがなぜ重要なのかを解説します。
生徒たちは「何を学び、なぜそれが大切なのか」を常に理解しているべきである
ヴィジブル・ラーニングの最もシンプルでありながら、学びを大きく変える要素の一つが「明確さ(Clarity)」です。KAISでは、すべての授業を次の2点の確認から始めます。
(1)学習の目的(Learning Intentions):何を学ぶのか?
(2)成功の基準(Success Criteria):どのような状態になれば「学べた」と言えるのか?
これにより、子どもたちは単に活動を「こなす」のではなく、その目的を理解した上で学習に取り組みます。自分が何を達成しようとしているのか、成功はどのように測られるのか、次に何をすべきかを、自ら説明できるようになります。
研究でも、このような「明確さ」は学習成果に対して非常に大きな正の影響を与えることが示されています。目標とそこに至る道筋が見えているとき、子どもたちは目的意識を持ち、主体的に学ぶようになります。言い換えれば、明確さは、学びを「手探り」から「意図ある行動」へと変える力を持っているのです。子どもたちが「何をしているか」ではなく、「何を学んでいるか」を説明しはじめたとき、私たちは教育の質的な変化が起きていると実感します。
段階的に進む学びー「表層」から「深層」、そして「応用」へ
KAISで用いられているもう一つのコアフレームワークは、SOLOタクソノミー(John Biggsと Kevin Collisにより開発)です。これは、学習を段階的に捉えるモデルです。SOLO(Structure of Observed Learning Outcomes 「観察された学習成果の構造」)の略称)は、教師が生徒の学習を、非常に単純な、あるいは部分的な理解から、つながりのある理解、そして最終的には新しい状況にアイデアを一般化し適用する能力へと、複雑さが増していくという観点から捉えるのに役立ちます。
KAISでは、SOLOタクソノミーをより分かりやすく、3つの段階に分けて提示することで、生徒が表面的な学習(基礎の構築)から深い学習(関連性の構築)、そして応用レベル(理解を新しい文脈で創造的に活用する)へと段階的に進んでいくことをサポートします。つまり、教師はSOLOを用いて、生徒が単に個々の事実を収集するのではなく、基本的な理解から関連性の構築へと進み、そしてより柔軟に学習を応用できるように学習を設計します。
KAISの教師たちは「ヴィジブル・ラーニングのマインドフレーム」で学びを設計します
ヴィジブル・ラーニングで最も重要なのは、特定の指導法やツールではなく教師の思考法(マインドセット)です。ヴィジブル・ラーニングでは、学習の設計と提供方法に直接影響を与える、10のマインドフレーム(学習成果に高い影響を与える教師が共通して持つ思考法)を特定しています。KAISでは、これらのマインドフレームが「質の高い授業とは何か」を定義する基準となり、Teaching & Learning Policy(教育・学習方針)に反映されています。具体的には、次のような考え方です。
- KAISの教師たちは、自らを自分の指導が学習にどのような影響を与えているかを評価する存在として捉えています。常に「この教え方は本当に機能しているのか?」「その根拠をどのように確認できるのか?」という問いを持ちながら授業に向き合っています。そのため、評価(アセスメント)を生徒たちの成果を測定するだけでなく、自らの指導を改善するためのフィードバックとして活用しています。
- ヴィジブル・ラーニングのマインドフレームは、集合的効力感(Collective Efficacy)を重視しています。これは、教員が一人で成果を出すのではなく、同僚や生徒と協働することで、教育の影響力はさらに高まるという信念です。
- 教師たちは、「ただ一生懸命やる」ことにとどまらず、思考を深めるための適切な挑戦を意図的に設計します。生徒が自分の力を超えて考え、理解を広げていけるような課題づくりを大切にしています。
- 教師たちは、授業の冒頭から「学習目標(Learning Intentions)と成功基準(Success Criteria)を明確に共有します。これにより、生徒は「何を達成すれば、学びが成功したと言えるのか」を具体的に理解した上で学習に取り組むことができます。
- 同様に重視しているのは、KAISの教師たちが生徒と人間関係と信頼を築き、間違えること、質問すること、仲間から学ぶことが安心してできる教室文化を育てることです。
- 授業では、一方的に話す「講義(モノローグ)」ではなく、「対話(ダイアローグ)」が重視されます。一方的な説明ではなく対話を重視することで、生徒の声を学習に反映します。
- 教師たちはフィードバックを「誤りを指摘するためのもの」ではなく、成長のための共有ツールとして扱います。これは対生徒だけではなく、教師間でも同様です。
これらのマインドフレームにより、KAISの教師たちはは単に授業を行うのではなく、エビデンスに基づき、意図的かつ柔軟に学びを設計しています。
フィードバックは学びを前進させる原動力
ヴィジブル・ラーニングにおいて、フィードバックは学習の後に行うものではなく、学習を前に進める原動力です。研究では、効果的なフィードバックは学習成果に極めて大きな影響を与え、成長速度を通常の倍にする可能性があることが示されています。ただし、そのためには、単なる点数や評価コメントにとどまらないフィードバックが必要です。
KAISでは、フィードバックを生徒たちが「現在地」と「目標」との間のギャップを埋めることをサポートする情報と捉えています。効果的なフィードバックとは、タイムリーで具体的、行動につながり、学習目標と成功基準に明確に結びついているものです。
ヴィジブル・ラーニングには、すべての学習者が答えられるようになるべき3つの重要な質問があります。
どこを目指しているのか? (学習の目標は何なのか?)
今どの段階にいるのか? (どうすれば、成功基準に近づけるのか?)
次に何をすべきか?(改善のために集中すべきことは何か?)
KAISでは、これら3つの問いが全学年のフィードバックの軸となっています。フィードバックが曖昧で個人的なものではなく、学習と進歩にしっかりと焦点を当てたものにするよう努めています。重要なのは、フィードバックは「判断」ではなく「対話」だということです。教師たちは、フィードバックが信頼され、理解され、実際の行動につながるような環境を意図的に作り出します。この環境とは、強い信頼関係を築き、学習目標を明確に保ち、生徒が受け取る準備のできている状態でフィードバックを伝えることが含まれます。
フィードバックが効果的に行われると、子どもたちはそれを批判ではなく学習のリソースとして捉えます。多くの子供たちが自らフィードバックを求め始め、フィードバックをもとに、課題の修正、進捗状況の把握、そして個人的な目標設定を行います。効果的なフィードバックは、生徒が「次に何をすれば改善できるだろうか?」という重要な問いに自ら答えるのに役立ちます。そして、まさにその時こそ学習が真に加速するのです。 学校選びの本質は「信頼」にあります。学びが意図的で、効果的で、常に改善されているという信頼です。KAISでは、ヴィジブル・ラーニングに基づき、目標を明確化し、成長が可視化され、次のステップが目的意識を持って進められるよう努めています。子どもたちが学びを理解し、成長を実感できるとき、彼らは受動的に「ついていく」存在ではなく、主体的な学習者になります。その主体性こそが、自信、自立、そして将来にわたる成功へと繋がっていくのです。


ジャスティン・ベチューンは、KAIS小中学校(東京)の校長を務めています。教育分野で15年以上の経験を持ち、一橋大学で教育社会学の修士号を取得し、特にオルタナティブ教育を専門としています。また、オタワ大学にて第二言語習得および犯罪学の学位も取得しました。日本には約20年にわたり在住しており、KAISに「ヴィジブル・ラーニング」フレームワークを導入したほか、社会科プログラムのコーディネーターとして、生徒がグローバルな視点から歴史的背景や社会を探究できるよう指導しています。多様なバックグラウンドを持つ生徒や教師のために、エビデンスに基づく教育の推進と、活気に満ちた支援的な学びのコミュニティづくりに尽力しています。