現在、イギリスのロンドン郊外のインターナショナルスクールで、国際バカロレアコーディーネーターとして勤務されているカムラン・ベイグさん。
日本のインターナショナルスクールでも14年の勤務経験がおありです。
日本、イギリスの両国で国際バカロレアで学ぶ生徒達を多く見て来たベイグ先生。
ベイグ先生の経験から「国際バカロレアの魅力」「子供たちはどう学ぶのか」「どのような進路があるのか」などのお話を伺いました。
「自分で考える力」が身につく国際バカロレア
編集部:日本、イギリス、共に国際バカロレア教育(International baccalaureate 以下IB)を採用したインターナショナルスクールでの勤務経験があります。
日本で教えるIBカリキュラムとイギリスで教えるIBカリキュラムの違いはありますか?
ありません。生徒のタイプ、教師の教え方によって授業の流れが変わる、ということはあるかもしれませんが、IBカリキュラムが目指す哲学は同じです。
イギリスでも日本でもおそらく世界で同じタイプの教育が行われていると思います。
■IBではどのように教えますか?
私たちは基礎学力も教えますが、多くの時間を実験、ディスカッション、調査、長文のエッセイを書くことに費やしています。
いわゆる知識を与えて暗記させる、というタイプの授業ではありません。
生徒が興味持ち、ディスカッションや実験が面白くなるように、そしてこの国際バカロレアの哲学に見合う授業を行います。教師は大変です(笑)。
でも、この過程で、生徒たちが自分で考える力を身につけていく様子を見ることができるのは教師としての醍醐味ですね。
ベイグ先生の話すIBの哲学。
文部科学省は、国際バカロレアの理念について、次のようにまとめています。
国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。
どのように学ぶのか?文部科学省の国際バカロレアのサイトは、わかりやすく書いてあるので参考にしたいですね。
■IBにデメリットがあるとしたら何でしょう?
そうですね。IBの資格を取るためには母国語、外国語も含めた6科目をバランスよく勉強しなければいけません。
理系が苦手、文系が苦手という理由で科目を絞れない点をデメリットだ思う生徒もいるでしょう。
それと、IBのディプロマ資格で入学できない大学も地域によっては多くあります。
行きたい大学の国やエリアについては前もって確認しておいたほうがいいですね。
ディプロマ資格を取得して大学進学するまで
■ディプロマ資格を取得できないことはあるのでしょうか?
IBディプロマのカリキュラムがある学校に通って高校を卒業してもディプロマ資格を取得できないことはあるのでしょうか?
あります。
IBのディプロマ資格を取るのは簡単ではありません。
高い学力が求められます。
ディプロマ資格を取得できなかった生徒は卒業後の11月にもう一度再受験することが可能です。
いわゆる日本でいう浪人をしてもいいならチャンスは2回あるということですね。
*IBのディプロマ試験を在学中の5月に受験する場合。
■生徒の何パーセントが在学中にIB資格を取得するのでしょうか?
実際のところ、生徒の何パーセントが在学中にIB資格を取得するのでしょうか?
今まで私が働いた学校は約80パーセントの生徒が取得していました。
でも学校自体のレベルにもよりますよね。
ここで大事なのはディプロマ資格を取得することはもちろん、「何点取得したか」、が大学進学に大きな影響を与えます。当たり前のことながらレベルの高い大学は高得点を取らなければ入学が許可されません。
■IBディプロマを取得するとどのような大学に志願できますか?
ヨーロッパとアメリカの多くの大学は選抜基準にIBディプロマ資格を採用しています。
イギリスは認知度が低かったのですがここ数年IBディプロマ資格で生徒を獲得する大学も増えていますね。
例えば、イギリスのケンブリッジ、オックスフォード、アメリカのハーバードやイエールなどの名門校への入学は45点中40〜42点の高得点を獲得しておく必要があります。
人生の財産となる教育
■先生から見るとIBの魅力とは?
実際にインターナショナルスクールでIBの教員として教えてきたべイグ先生。
教員としてIBの魅力とはどのようなところにあるのでしょうか?
学生時代だけでなく生涯にわたって財産となる「考える力」が身につくことです。
高校生でありながら高いレベルの研究、調査、論文作成、自分の意見を表現することがIBでは求められます。
特に最後の2年(ディプロマ資格課程)は、本当に生徒には高度なことを課します。
英語で4000ワード(編集部注:日本語だと8000字)の論文を全ての教科でいくつも作成します。
書きっぱなしではなく、もちろん教師たちによる添削や指導が入り何度も書き直すのです。そこが普通の高校とは違うところです。
卒業生は『高校の時は大変だったけれど大学に入ってからの勉強がスムーズだった』とよく話しています。
IBの学びが大学でも社会でも役に立つ力となっていると感じます。
■本当のグローバルとは何か、多様性の複雑さ素晴らしさ
IBはカリキュラムの中にグローバルな視点を持つような授業を多く取り込んでいます。
インターナショナルスクールはそれでなくても元々グローバルですね。
その中で本当のグローバルとは何か、多様性の複雑さ素晴らしさを生徒は認識していきます。
これは卒業後、世界に飛び立つにしても自国で生きていくにしても大きな力となると私は信じています。
■ベイグ先生の教え子は、どのような進路を歩まれていますか。
私の卒業生は世界中で様々な職種で活躍しています。
多くの生徒は『二ヶ国語以上を話しグローバルな理解がある』ということが強みのようです。
以前、ひとりの元生徒が『IBで勉強した、と言うだけで社会で信用を得ることがある。自分で物を考えたりグローバルな視点があると思ってもらえるんだ』と話してくれたことがあります。
IBで勉強した経験が社会に出てからの強みになっているのですね。
■世界も社会も多様化
今の世の中は、学力の高い大学に行って大企業に入るのが成功、と言うシンプルな社会ではもうありません。
世界も社会も多様化しています。
インターネットでどこででも誰とでも繋がることができます。
知恵を使えば誰にでも機会が与えられる社会になりつつあります。
そこで役立つのが知識を詰め込む教育ではなくIBのような多様な視点を持ち自分の意見を発信する力を育てる教育ではないでしょうか。
IBは日本でどのように発展していくのか?
編集部:ベイグ先生は、日本のインターナショナルスクールでIBを教えて、現在は、イギリスのインターナショナルスクールでもIBで教えています。
今後、IBは日本でどのように発展していくと考えていますか?
日本の大学がIBディプロマ資格の点数をどのように参考にして生徒を受け入れているかどうか、は現在の状況はわかりません。
ただ、私が日本のインターナショナルスクールで働いていた1997年から2011年ごろまでは、IB資格はまだ日本で一般的でなく受け入れる大学も少なかったように思います。
インターナショナルスクールの生徒は帰国子女枠やAO入試で日本の大学へ進学していました。
日本でも現在政府がIB校を増やしたいと提言しているため、今後日本の多くの大学がIBのディプロマ資格を取得した生徒を入学させるのではないでしょうか。
日本でも世界でもIB教育が広がってきているのは、政府も教育者も世界が変わってきているのを感じ、新しいタイプの教育が必要だと感じているからでしょう。
私はそこにIBの未来を感じます。
編集部:今後もIB教育が発展していくことを楽しみにしています。
本日はありがとうございました。
「世界で使える大学志願資格」国際バカロレア(International Baccalaureate)とは、世界中を転勤する家庭の子どもが、大学に進学できるように国際的に認められる大学志願資格を作ろう!という動きから生まれました。世界的な転勤族の子どもの教育を考えて生まれたと考えるとわかりやすいですね。
【インタビュー】国際バカロレアで学ぶとはどのようなことでしょうか? ディプロマ取得者 六本木延浩さん
http://istimes.net/articles/712国際バカロレアのディプロマを取得し、日本の大学へ進学が決まっている六本木 延浩さんにお伺いしました。六本木さんは、シンガポールのインターでバカロレアPYP、MYP、日本に帰国後、横浜インターナショナルスクールで学び、ディプロマを取得しました。
国際バカロレアは、国公立・私立・インターナショナルスクールの三つどもえ?
http://istimes.net/articles/799国際バカロレアは、広島と東京が熱い?国際バカロレアは、国公立・私立・インターナショナルスクールがそれぞれ異なる言語で実施しています。なかでも広島はインターナショナルスクール、私立、公立と人口280万人の都市ながら国際教育に積極的です。また、東京は国立、公立も国際バカロレアコースを設置。全国に普及するか、が注目です。
インターナショナルスクール。ちょっと遠い存在の学校というイメージの方が多いのではないでしょうか。タイムズ編集部は、スクールのお力を借りて取材を進めてきました。そのなかでちょっとふしぎな存在だったインターナショナルスクールの姿に触れることができました。そこで印象的な10の物語と番外編をお伝えします。